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更新日:2012-06-27 タイトル: 二十才の微熱 A TOUCH OF FEVER 製 作 年: 1993 製 作 国: 日本 ジャンル: ドラマ/青春 レ ス: ☆おすすめ!やおい映画☆ http //www2.bbspink.com/801/kako/979/979530199.html 37 名前: 風と木の名無しさん 「二十歳の微熱」。袴田吉彦が若くてきれいだ。 93 名前: 風と木の名無しさん かなり王道だけど「二十歳の微熱」 名作とは話題それてしまって申し訳ないんだけど あの映画で、日本昔ばなしのED歌うじゃない? あれがなんか頭からはなれなくて、見た後しばらく 「くまのこみていたかくれんぼ~」と口ずさむのが 癖になってしまったわ・・・。 176 名前: 風と木の名無しさん 邦画で、「800」って見たことある人いますか? 高校の陸上部の話みたいなんですが、パッケージがあからさま‥‥ (男2人のシャワーシーンとか入ってるし‥‥) 袴田吉彦と松岡俊介が出てました。 ビデオ屋で見かけたんですけど恥ずかしくて借りれないよー。 178 名前: 風と木の名無しさん 176 それ観ました・・・二十歳の微熱を知ってたんでレンタル屋で友達と 見つけてまた袴田か~!と爆笑ついでに借りてしまいました。 けど例のシャワーシーンしか記憶にないです・・・スマソ。 あんまりその手の描写はなかったような。 自分的にイマイチだったのかも 405 名前: 風と木の名無しさん 403 見た見た、それ。 残酷描写があれだから(耳に接着剤入れるシーン覚えてるわ) 劇場公開できなかったとかいうやつね。 主人公演じた遠藤雅くんは「二十歳の微熱」でも 袴田吉彦を好きな役やってる。 自分の中では遠藤くんは完全801な俳優だ。 406 名前: 風と木の名無しさん 405 思い出しちゃったよ。耳穴に接着剤…イタタタ。 そっかー。「二十歳の微熱」に出てたのかー。 情報、ありがとです。 751 名前: 振奴 投稿日: 2001/06/29(金) 01 46 ID UeriX6PM 邦画で「渚のシンドバッド」でてます?(今ふらっと来ただけなんで前の方見てない…) 「二十歳の微熱」の監督のやつ。 少女まんがのやうにめちゃめちゃカワイイ…。 ただ、この映画のヒロインのなれの果てが今のあゆ…。時は残酷。 ☆おすすめ!やおい映画 Part2☆ http //www2.bbspink.com/test/read.cgi/801/999447812/ 39 名前: 9 投稿日: 01/09/15 23 20 ID .qJ/8TCQ 31 「ハッシュ!」はあの「二十歳の微熱」の橋口亮輔監督。 監督もゲイですぜ。もうすぐ公開なんですyo!楽しみ~ 公式サイト ttp //www.cine.co.jp/hush/ ↑橋口監督の写真もある。カッコイイ。 40 名前: 風と木の名無しさん 投稿日: 01/09/16 00 10 ID x3gPGafs >39 教えてくれてありがとう!自分が好きそうな映画だ! てかタナベさんが。。。ハァハァハァハァハァハァハァ、、、 監督もカコイイ! 373 名前: 風と木の名無しさん 投稿日: 02/01/15 02 53 ID JHWVXk7v まだ公開されてないのですが、予告で観た「ハッシュ!」に興味津々。 田辺誠一と高橋和也のゲイカップル(ともうひとりの女)の話です。 監督さんは、「二十歳の微熱」のひとです。 ▲PAGETOP 今日: - 昨日: - 合計: -
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 「これは、アイフェに似てる…使えそう。こっちは……オニワライタケかあ」 森の中を小動物じみた動きで歩きながら、エリーは次々とキノコやら草やら、木片やらを籠へ入れていく。何というか、すごく手馴れている動作だった。 「あ、あのう、エリーさん? 一生懸命なところ、悪いんですけれど……その、キノコはちょっと食べられませんよ?」 シエスタは籠の中を覗きこみながら、ちょっと気の毒そうに言った。 「え、毒キノコなの、これ?」 エリーが何か言うよりも先に、才人が驚きの声をあげた。 「これって、ゲラゲラキノコじゃない?」 同じように籠を覗いたキュルケが、キノコを手にとって首をかしげた。 「ゲラゲラキノコ?」 「食べたらゲラゲラ笑いが止まらなくなるってキノコよ、確か。毒キノコとはいえば毒キノコだけど、死ぬほどのもんじゃないわね」 「へえ、こっちではそういう呼び名なんだ」 言いながら、エリーはさらに二、三のキノコを放り込む。 「確かにこれ食用にはならないけど……薬にはなるんだ」 「毒薬でも作るつもり? それともイタズラ用とか?」 キュルケは興味深げにたずねる。特に“イタズラ”の部分に力を入れながら。 「違いますよう。栄養剤とか、酔い止め薬の材料になるんです」 「毒キノコなのに?」 こう言ったのは才人だった。 「毒っていっても、成分全部が毒ってわけじゃあないし。それに、毒でもほんの少しだったら薬になることも多いんだよ」 「ふーん……」 持ち前の好奇心から、才人は籠の中のキノコや木片をしげしげと見つめていた。 エリーが色々な薬を作れるのは聞いているが、それがこんなものが作られるのか。 才人は何となく不思議な気分だった。 「こっちの木も、薬にするわけ?」 「ううん。こっちは、そうだね……楽器の材料とか、紙とか」 あれこれたずねる才人に、エリーはちょっと嬉しそうに答える。 そんな二人を、あまり暖かいとは言いがたい目で見つめる者がいた。 エリーたちから離れた場所。草むらに身を潜めて、唇を噛んでいた。 「何よ、あいつ……デレデレしちゃって、ほんと、みっともない……」 視線の主は、ピンクがかった金髪の少女、ルイズだった。 密かに才人の動きを監視していたルイズは、キュルケたちが出かけたところを、一人尾行してきていたのだ。 ルイズは草むらからじっと才人の様子をうかがう。 何というか、仲良くやっている。主である自分とは、まともに口さえきかないくせに。 才人を睨む目から、いつ間にか涙がにじんでいることに、ルイズはしばらく気がつかなかった。 エリーを見よう見真似で“採集”を行っていた才人は、シエスタの腰のあたりへ目をとめた。 お尻に注目? いや、腰にぶら下がっているものに。そこには、メイド姿の少女には似つかわしくない、大き目のナイフが揺れている。 「シエスタさん、それ……」 「……? ああ、これですか?」 最初若干不審げであったシエスタは、才人が何を見ているのか気づくとふっと笑った。 「大して意味はないかもしれませんけど、護身用のナイフです。マルトーさんが貸してくれたんですよ」 「へえ? ちょっと、見せてくれる?」 「気をつけてくださいね。何でも、もともと傭兵が使っていたものらしくて、よく切れますから」 受け取ってみると、見た目以上にずしりと重い。恐る恐る抜けば、ぎらりと不気味な光沢を放つ刃が現れる。 「おお、すげえ……」 才人は感嘆の声をあげた。声ばかりではなく、体までも震えている。 明確な殺傷力を持ち、そのために創造された“武器”をその手にするのは、まったく初めての経験だった。 「すごいナイフだねえ…。どんな人が作ったんだろ?」 いつの間にかシエスタの近くに来ていたエリーがため息を吐いた。 「頑丈そうだけど、ちょっと地味なんじゃない?」 キュルケの評価はあまりよくないようだ。 「きっと、実質本位なんですよ」 「傭兵が使うわけだから、そりゃあ華美さはいらないんでしょうけど」 エリーが意見を述べると、キュルケは少しばかり肩をすくめた。 「マルトーさん、これどこで手に入れたのかなあ?」 「さあ…? マルトーさん、確か傭兵をしてる人からもらったとか、そんなこと言ってましたけど……。あんまり詳しい話はおぼえてないです」 「そうなんだ? って、あれれ? サイト? どうしたの、それ……」 「へ」 いきなり目を見開いたエリーに、才人はわけがわからず空気の抜けるような声を出した。 「その、左手」 言われるまま、才人は自分の左手を見る。刻まれたルーンが。 うっすらと光っていた。 「なにそれ」 キュルケは身を乗り出して、光るルーンを見る。 「いや、俺にもぜんぜん……なにかな、これは」 「それって、使い魔のルーンとかいうものだよね? 私の額にもある……」 私にもあるけど……と、エリーは自分の額をなでた。 「でも、光ったりなんてしたことないなあ。なんでサイトのは光ってるの?」 「いや、俺に聞かれてもなあ」 「さっきまでは光ってなかったんですよね? なんで急に」 「さっきと違ってることといえば」 シエスタが首をかしげる横で、キュルケの目はサイトの持つナイフに向いていた。 ――な、なにやってんの、あいつらは……。 わいわい騒ぐエリーたちを、隠れながら見ていたルイズは低い姿勢のままぐいと顔を近づけた。 なんというかさびしんぼう全開の図である。 「なにやってるんだろ、私こそ……」 しばらく睨み続けた後、ルイズは視線をそらし、むなしげにつぶやいた。 魔法成功率ゼロのメイジ。使い魔さえ御せないメイジ。 というか、なんというか、自分の使い魔にさえ相手にされないメイジ。 はっきりいって生きてるが価値あるのか? エリーと親しげに話す才人を見て、どうしようもなくネガティブな思考がルイズの頭から噴き出し始める。 ――なんで、よりによって、ツェルプストーの女の使い魔なんかと、仲良くやってるのよ……! 悔し涙を浮かべて、ルイズはうつむいた。ぽたりぽたりと涙が地面に落ちていく。 そりゃー鞭でしばかれて貧相な飯で寝場所は床という環境を提供してくださる“ご主人様”と、普通に人間として接してくれて、親切で優しい女の子とどっちを選ぶと言われたら、ほとんどの人間は後者を選ぶ。 よほどご主人様にべた惚れ、萌え狂っているか、さもなきゃ特殊な性癖の持ち主でない限りは。 しかし、貴族>>>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>平民という常識の中で育ち、使い魔=主に服従という思考から抜けられないルイズにとって、そんなことが理解できるはずもなかった。 そんな余裕もなかった。 ただでさえゼロのルイズとして崖っぷちの状態で、召喚したのが平民(敵視しているキュルケも同じく平民召喚しているのが微妙なところだが)と来た日には。 それが才人への傍若無人な態度となり、それでますます才人の心が離れていくのだ。まったくの悪循環だった。 顔を上げたルイズは、いつの間にかエリーを見ていた。 余裕のない心は悪感情を生み、悪感情はひどくとどまりやすい……。 「あんな田舎者の、どこがいいのよ」 ルイズがつぶやいた直後。 「何かいるよ!!」 「ひっ…!?」 ルイズは自分の心臓が破裂したような錯覚をおぼえた。 気づかれてしまったのか。使い魔の、ツェルプストーをこそこそとつけてきた自分の姿を。 どうしようもない羞恥の念に、ルイズは気絶しそうになる。 が、エリーの声はルイズに対してのものではなかった。 エリーたちの周囲を何匹もの狼が取り囲んでいたのだ。 才人はエリーとシエスタを後ろにかばい、ナイフを握り締めていた。本人は気づいていないが、ルーンの輝きがさらに強いものへと変わっている。 「そんな……昼間にこんなに狼が!?」 「何かえらいことになっちゃったみたいね」 シエスタは震える声で叫ぶ。キュルケは挑発的な笑みを浮かべて、杖を狼たちに向ける。 エリーは持ってきたフラムを両手に持ち、緊張の面持ちで狼たちを睨んだ。 睨み合いの後、大きな一匹がひと声鳴いた。 それが合図であったらしい。 うなり声をあげ、狼たちが一斉に襲いかかってきた。 キュルケは杖を振り、火炎を狼たちに放つ。燃える炎に焼かれ、数匹が悲鳴を上げた。 「このお!」 飛びかかる狼に、エリーがフラムを投げる。BOM! という爆発を浴びて、狼が吹っ飛んだ。 出鼻をくじかれて、狼たちはわずかに怯んだようだ。しかし、退散する気はないらしい。 思った以上に数は多く、数匹やられた程度ではどうということはないようだ。 「隙をうかがってるわね……」 杖をゆらゆらとさせながら、キュルケは笑う。だが、その顔には汗が浮かんでいる。 俊敏で数の多い狼たちに対して、彼女らは少々不利なようであった。いつしか、杖やフラムを持つ手に力が入る。 最初は油断していたので何とかなったが、次は向こうも狡猾に動くだろう。 ごくりと、エリーは喉を鳴らす。そのエリーの前に立っていた才人の姿が、いきなり消えた。 ――ええ? 目の錯覚? エリーがあわてている瞬間、黒い風のようなものが狼たちを薙ぎ払っていった。 「なんなの!?」 キュルケも驚いていた。 だが、一番驚いているのは、狼たちだろう。 仲間が次々と血煙をあげて倒れていく。中には、真っ二つに両断されたものもいる。まさにほんの一瞬で、半数以上の狼が地に伏していた。 「はあ。はあ。はあ……」 サイトが、ナイフを構えたまま狼たちを睥睨していた。呼吸は荒いけれど、疲れたという印象はない。 「さ、サイト、すごい!」 「サイトさん……」 「まさか、君にこんな特技があったなんてね」 三人の少女たちはみな賛辞の視線を才人に送る。 しかし才人はそれに応える様子はなく、ぽかんとした顔で自分の手を見つめていた。 「な、何よ……あいつ! すご…いえ、ちょっとはやるんじゃない!!」 陰でそれを見ていたルイズも、キュルケやエリーと同じく驚嘆していた。 ただの平民だと思っていたのに、よもやこのような剣術を習得しているとは思わなかった。 ルイズは完全に才人の見せた力に気を取られ、周囲のことなどわからなくなっていた。 がさり……という音を聞くまでは。 ――がさり? 音に気づいたルイズがハッとした途端、うなり声をあげた狼がルイズにとびかかっていた。 思わず顔をかばったルイズの腕に、鋭い牙が突き立てられた。 「きゃあああああああーーーーーーーーーーーー!!?」 「誰?! 人が!?」 突然の絹をさくような悲鳴に、エリーは愕然とする。 「いけない! ルイズ!!」 キュルケは顔色を変えて叫んだ。 「るいずって、ミス・ヴァリエールですか!? どうして!?」 「あのバカ! なんで、こんなとこにいるんだよ!!」 青くなるシエスタ。怒ったように叫ぶサイト。 「大変だよ、助けないと……。 う…!!」 「もちろんよ! 死なれてたまるもんですか!! ……ち! 鬱陶しい連中ね!!」 ルイズを助けようとするキュルケ、エリー。だが、狼たちはルイズの悲鳴で勢いを取り戻したのか、再び牙をむき出し威嚇しだした。 「こいつめ!」 エリーがフラムを投げる。爆発に飛びのく狼たち。だが、今度はクリーンヒットとはいかない。 しかし、よけた先にキュルケの炎が炸裂。焦げた肉の臭いと共に狼たちが倒れ伏した。 「しっつこい奴らだな! そんなに俺たちを飯にしたいのかよ!?」 才人がナイフを構えると、それだけで狼たちは警戒したように後退する。 「まずいわね、急がないと本当にルイズが……」 狼たちを見ながら、キュルケはつぶやく。 「サイト! ここはいいから、ルイズさんを助けて!!」 エリーは才人に向かって叫んだ。 才人はおう、と叫ぶ。すぐにうなずきルイズのいるほうへと走り出した。途中にいる狼たちを斬り伏せて。 「…ぎぃ! ぎゃあああ!!」 狼の爪や牙に蹂躙され、ルイズは悲鳴を上げ続けていた。そこには獣に襲われる無力な少女がいるだけで、貴族の誇りをかかげる普段の令嬢はどこにもいなかった。 幸運であったのは、襲ってきた狼が一匹であったこと。そして、その狼がまだ若く、狩りの未熟なものだったということだ。これが熟練した個体であれば、ルイズは一瞬で急所をやられ、絶命していたであろう。 だが、ルイズにそんなことなわかる道理はなく、悲鳴と絶望の中でもがき続けるだけだった。 才人のナイフが、狼の急所を突き刺すまでは。 「この野郎ーーー!!」 ルイズにすっかり気をとられた狼は、風のような速さで接近してきた才人に気づく間もなく、刃を首筋に受けて絶命した。 「おい、大丈夫か?」 「ふ、ふえ…?」 才人は血とほこりでぼろぼろになっていたルイズを助け起こす。 「生きてるな。よし」 ルイズが一応無事である確認すると、才人はエリーたちのほうを向き直った。 その時には、炎と爆弾にやられて狼たちは逃げ出していた。どうも先ほどの勢いは一過性のものだったようだ。 「サイトー! ルイズさんはーー!?」 エリーがサイトのもとへ駆け寄ってくる。 「ああー、大丈夫。腕に怪我してるけど、どうにか生きてるよ」 「良かった……」 それを聞いて、エリーはホッとした表情になる。それを見て、才人の表情も和らいだ。 そんな二人を横で見ていたルイズは、どこか暗い表情でうつむいた。 「あ、ルイズさん、大丈夫ですか? ……急いで手当てしないと」 エリーはルイズのそばに座ると、傷を負った腕を見る。 「ほっといてよ……」 ルイズはつぶやく。だが、それはまるで蚊の鳴くような小さなものだった。当然エリーには聞こえていない。 「シエスタさーん! リュック持ってきてー! ルイズさんの手当てしないと!」 採集の帰り道。ルイズは才人におんぶされていた。腕を噛まれただけではなく、どこかでひねったのか足首も痛めていたのだ。腕は応急手当がなされ、包帯をまかれている。 「それにしても、お前何で一人であんなとこいたんだよ? 散歩か?」 才人は背中のルイズに若干厳しい声で言った。 しかし、ルイズは無言。 「おい……」 「よしなよ」 返事のないルイズに、ムッとする才人をエリーが止めた。短いが強い口調だった。 「今色々言ったって無理だよ。あんな目にあったんだから」 一歩間違えば食い殺されていたのだ。それは凄まじいショックだろう。 エリーの言葉に、才人も納得したのかそれ以上は何も言わなかった。 キュルケも何か言いそうな顔ではあったが、エリーの意見にちょっと苦笑し、口を閉じたままにしていた。 「でも、才人さんも人が悪いですね? あんなすごい特技を隠してたなんて」 無言になった場を変えようとしてか、ちょっとはしゃいだ声でシエスタが言った。 「隠してたわけじゃないよ。あれは何つーか、体が勝手に動いたんだ。ナイフとか剣とか、全然扱ったことなかったのに……」 「嘘でしょう? だって、あれとても素人の動きとは思えなかったよ?」 エリーはまじまじと才人を見る。 「ほんとだって。俺だって、嘘みたいな感じなんだ。自分のことなのに」 「そういえばあの時、左手のルーンが光ってたよね? ひょっとして、それと関係があるのかな?」 エリーの意見に、才人は自分の左手、そこに刻まれた使い魔の証を見た。今は、光っていない。 「そういうことは、コルベール先生にでも聞いてみたら? 何かわかるかもよ」 キュルケの意見に、才人はそうっすね、とうなずいた。 ルイズは終始無言だった。 ただ、才人の背に、そっとを頬を寄せて。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 トリステイン魔法学院の院長オールド・オスマンは学院長室で読書にふけっていた。いつもだったら秘書のミス・ロングビルにセクハラをしているのだが、今は極めて真剣な表情である。 読んでいるのは、一応は書物にあたるのだろうが、きちんと職人が作ったものではなく、いくつもの紙片を適当に束ねたような粗雑なつくりのものだった。しかし、それに書かれている文字は、ハルケギニアで使われているものではなかった。 厳しい表情で読書を続ける中、いきなり学院長室のドアがノックされた。 「誰じゃね?」 オスマンはすばやく本をふところにしまいこむ。 乱暴にドアを開け、飛び込んできたのは頭のさびしい中年教師ミスタ・コルベールだった。 「オールド・オスマン! 大変なことが……」 「何じゃね、ミスタ・エグゼビア」 「コルベールです! どうしたらそんな名前が出てくるんですか!?」 「おお、そういえばそんな名前じゃったね。それで何事かね、ミスタ・ファンタスティック」 「コルベールですってば! ますます離れてますぞ!!」 「しょっぱなの軽いギャグじゃ。……で、何かねミスタ・コルベール?」 「これを見てください!」 「えーと、何だっけ、これ? ああ、『始祖ブリミルの使い魔たち』か。また古臭いものを…。で、これが何?」 「これも見てください! これも!」 コルベールは何かのスケッチらしきものをオスマンに見せた。 「これは使い魔のルーンのようじゃが……。むう?」 オスマンはスケッチと、本に描かれている絵を見比べ、表情を引き締めた。 「このルーンは、ミス・ヴァリエールの召喚した平民の少年に刻まれたものです。見てください、これは文献に記される、ブリミルの使い魔ガンダールヴと同じものではありませんか!!」 「……」 「つまり、あの少年は伝説の使い魔ガンダールヴではありませんか!?」 「確かに、この二つは同じもの。しかし、じゃね。それだけで決め付けるのは早計というもんじゃ」 「無論のこと、それだけではありません」 コルベールはもったいぶって咳払いをする。 「先日、ミス・ツェルプストーが学院近くの森にいった際のことですが」 「ああ、報告には聞いとる。ミス・ヴァリエールが狼に襲われて怪我をしたそうじゃな」 「その際、かの少年は狼の群れを瞬く間に蹴散らしたそうです。それも風のような速さで。その前後……彼はナイフを手にした時からルーンが光り出し、超人的な力を発揮したとか」 「こういっては何じゃが、そのナイフが何らか特殊なものであった可能性は?」 「ありません。念入りに調べましたところ、かなり質のいいものではあるようですが一切魔法の痕跡は見当たりませんでした」 コルベールの説明に、オスマンはむう、とうなった。 「しかしのう。やはり、それでもまだ伝説と結びつけるのは早計も早計じゃよ。ミスタ・コルベール」 仮にガンダールヴだとしてもじゃ、とオスマンは白いひげをなでた。 「ならばこそ、なおさら慎重にならねばのう。王室のばーたれどもに知れれば、使い魔もミス・ヴァリエールも何をされるかわかったもんではない」 「確かに……」 「ミスタ・コルベール、密かに使い魔の少年のことを調査してみてくれ。あくまで、それとなくな」 「わかりました」 「ああ、それから……ミス・ツェルプストーの使い魔も、人であったな。こっちは少女とか……」 「はい、“シグザール”という、異国の地の人間です。錬金術という未知の技術を持っていて、こちらも……」 「錬金術か」 きらり、とオスマンの瞳が光った。 「何か、ご存知なので?」 「いやいや…。そちらのほうも、調査をしておいてくれよ? ちゅうかミスタ・コルベール、すでに色々と接触しておるんじゃろう?」 「まだいくらか話を聞いたり、本を読ませてもらった程度ですが…。錬金術というものは相当に奥深く、高度な技術体系であることは間違いないようです」 「そうか………」 こつこつ。ドアがノックされた。 私です、と秘書ロングビルの声がドアの向こうからした。 「入りなさい」 部屋に入ったミス・ロングビルは書類を机の上に置いた。 「王室からです。最近治安の悪化が激しいので、注意をするようにと」 「ふーん。わざわざ王室から……。ふん、盗賊やオークどもの動きがのう」 オスマンは書類を読みながら、顔をしかめる。 「それに、“土くれ”かい」 「はい。巷を騒がしている“土くれのフーケ”が城下町を荒らしているとか……」 「物騒じゃのう。生徒に注意を呼びかけんとな」 「もしかすると、この学院もフーケめが襲撃してくるかもしれませんぞ」 「まあ、怖いことおっしゃらないで…!」 コルベールの言葉に、ロングビルは顔を引きつらせる。 「いや心配には及びません。もしもの時にはこの“炎蛇”のコルベールがお守りしますぞ」 そう言って、コルベールはばんと胸を叩いてみせた。 「まあ、頼もしい」 笑顔を見せるロングビルに、いやなに、男として、教師として当然のことです、とコルベールはちょっとばかりやにさがった顔で言った。 その様子に、オスマンはけっとそっぽをむいた。 ぱかん、ぱかん、と才人は厨房の裏手で薪を割っていた。生来の調子の良さ、もとい適応力が幸いしたのか、もう完全に使用人たちの中に溶け込みつつある。 最初は皿洗いなどをやっていたが、今では水くみや薪割りなどの力仕事が主になりつつあった。 「ふう……」 こんもりと薪が小さな山となった頃、才人は汗をぬぐった。そして、左手のルーンを見る。 ――コルなんとかという先生、調べておくって言ってたけど……。ホントに何かわかるのかねえ? 使い魔として契約とした時には特殊な能力を授かることもある。そんなことを話していたが。 少し休んだ後、また薪割りにとりかかる。その矢先、才人は手を止めた。 一人の生徒がフラフラと歩いているのが見えたのだ。 ――あいつは……。 ギーシュというキザ男だった。食堂での喧嘩騒ぎの時とは裏腹に、妙にやつれているように見えた。 「やあ、ゼロ…いや、ミス・ヴァリエールの使い魔くんじゃあないか……」 ギーシュは才人を見ると、覇気の欠片もない顔で挨拶をする。 「………」 あの時笑い者にされて悔しい思いがあるだけに、才人はそれを無視する。 「ふっ……。無視かい、それもいいさ」 ギーシュは自嘲を浮かべて、才人のそばに立つ。 「人生とは、愛とは残酷なものだなあ。薔薇とは凡人には理解されにくいものらしいよ……」 ――何言ってんだ、こいつ………………。 一人勝手にぶつぶつ言っているが、要約意訳をすると、モンモランシーという子に振られたということらしい。 ――けっ。ざまーみやがれ。 まったくもっていい気味である。 放っておくと、ギーシュは一人でしゃべりっぱなし。ひょっとして友達いないのだろうか。そうか思うと、今度は地面から出てきたでかいモグラと戯れだした。 ますますもって薄気味悪い。 ――気持ちわりいなあ…。どっかいけ、おい。 いらつきながら、才人は薪割りを続ける。 そこに。 「ここにいたわね」 今度はルイズがやってきた。 「街に行くわよ。ついてきなさい」 唐突に、そんなことを言う。 「……なんで?」 「いいからついてきなさい!」 ルイズはいらだったように、才人の腕をつかんで引っ張っていく。 「な、何言ってんだよ! まだ薪割り終わってねーし……! つうか何でお前と……」 才人の言葉に、ルイズはわなわなと震え出す。 「あ、あんたは私の使い魔でしょうが!? 黙ってご主人様についてくればいいの!!」 「やだよ」 才人はルイズを振り払った。 「最低、理由ぐらい説明しろっての」 「………………」 ルイズは怒ったのごとく、ふーとうなった。しかし、しばらくすると、声を抑えながら何やら話し始めた。 「……この前、森で私を守ったでしょ!! だから、その……忠誠には報いるところがないとね!!」 「あー、つまりお礼ってことか」 「ご、ご褒美よ! 忠誠を見せた使い魔に対するね」 ふんとルイズはそっぽを向くが、その顔はかすかに紅い。照れているのか。 ふーん、と才人は納得したような顔をした。 「わかったら、さっさといくわよ!」 「別にいらね」 先に立って歩き出そうとしたルイズは、才人の言葉につんのめる。 「いらないっ!? せ、せっかく私が…………!!」 ルイズは顔をトマトみたいに真っ赤にさせて才人を睨んだ。 「別に、あれはお前だから助けたっつーわけじゃねえし」 「何よ、それ……」 「ああいう時は、助けるもんなんだろうが、人間として。それとも何か? お前が俺の立場だったら見捨ててたのかよ」 「……そんなこと」 「だったら、それでいーだろ。用はそんだけか? だったら俺、忙しいから」 才人はまたぱかん、ぱかんと薪割りに専念しだす。 ルイズはそれを見ながら、ぶるぶると震えていた。いつの間にか、手に杖を握っている。 「こ……の……」 目に涙を浮かべながら、ゆっくりと杖を振り上げる。 「まちたまえ、使い魔くん」 ルイズが杖を振り下ろそうとした時、ギーシュが才人に声をかけた。これにきっかけを奪われ、ルイズは得意の失敗爆発魔法を発動することはなかった。 「横から見せてもらったが、君は少々冷たいんじゃあないか? レディーのアプローチを断る時には、それなりの作法というものがある。君のはあまりにも野蛮すぎるよ」 ギーシュは髪の毛を軽く弄りながら、どうだね、とポーズを決めて言った。 「関係ねーだろ。つーか、相変わらずキザなしゃべりかたしやがんなあ……。おめーはちび○子ちゃんの花輪くんか?」 「……ハナワ? 何だい、それは……。まあ、いい。一人の薔薇の紳士として言わせてもらうが……。ミス・ヴァリエールは、使い魔に対する褒美と言い条、君と親交を深めたいと見たが……」 「ちょっと!? な、な、何勝手なこと、言ってるのよ……。私は別にこんな犬なんか……」 「犬!? てめ、人をよくも……」 「おうっと、待った。短気はいけないよ、使い魔くん」 犬呼ばれりされてムッとする才人だが、ギーシュが制する。 「使い魔、使い魔、うっせーな! 俺には、平賀才人……いや、サイト・ヒラガつう名前があるんだ!」 「では、サイト。君はさっき人として、とこう言っていたね。噂で聞いているが、君は狼に襲われたミス・ヴァリエールを救ったとか……それは人として当然のことだから、別に礼はいらないと」 「あ、ああ……」 「だがね、こういう場合礼をのべ、感謝するのも人として当然じゃあないのかい」 「……まあな」 ギーシュの意見に、才人はうなずく。 「そうだろう。そしてだ……その感謝を素直に受ける。これは、悪いことかい? いや、悪いことじゃない。自然なはずだ……」 「…………」 「ならば、“お礼”をしたいというミス・ヴァリエールに同伴したって、いいんじゃないのかい。それとも、何か思うところでもあるのかい?」 何か思うところでもあるのか……その言葉に反応したのは、ルイズだった。何かをうかがうような目で、才人を見つめる。 「……そんなもん、別にねーよ」 「というわけらしい。ミス・ヴァリエール、彼は君についていくそうだよ」 ギーシュはルイズを見て、ひときわキザな仕草で言ってみせた。 「ふ…ふん!! 最初っから素直にそう言えばいいのよ!! 余計な手間かけさせて……」 ルイズはわざとらしく大声で叫びながら、才人を引きずっていく。 「い、いてえな! おい、引っ張るんじゃねーって……!」 ギーシュはルイズと才人を見送りながら、ふうーと頭を振った。 「やれやれ……。こういうのは僕のキャラクターじゃあないんだけど……。まあ、たまにはいいさ。そうは思わないかい、ヴェルダンデ」 そうつぶやき、使い魔であるジャイアントモールの頭をなでる。 もぐもぐもぐ……。 モグラは巨大な体躯に似合わぬ円らな瞳で主人を見上げた。 「ふっ…。人と人と結びつけるのもまた、薔薇の役目か。やっぱり、僕のキャラじゃあないね」 ギーシュは苦笑して、胸にさした造花の薔薇の弄る。 「しかし、悪くもないか」 タバサは熱心に本を読んでいた。これ事態はいつものことである。が、いつもとは違っている部分もあった。 まず本が違う。読んでいるそれは、エリーの持ってきた本のうちの一冊"絵で見る錬金術"。絵本のように、錬金術についてイラスト中心でわかりやすく記した超初心者向けの本だ。 書かれている文章のほうも実に簡単なものである。 タバサはそれを食いいるように読んでいた。その横には、エリーの姿が。 「……これは?」 「これはねー……ロウのつくりかたで」 タバサがたずねると、エリーは細かく説明を始める。 そんな二人の"お勉強会"を横目で見ながら、キュルケはふわあ、とあくびをしていた。 ――せっかくの虚無の曜日なのに、二人とも熱心ねえ……。 エリーとタバサは暇を見ては互いの国の言葉を教え合っている。会話そのものは問題なく、言葉の表現や文章の構造なども意外に似ている部分が多いので、それほど難しいものではないらしい。 もっとも、その"お勉強会"は傍から観察していてあんまり楽しいものではなかった。 キュルケはしばらくの間ぼけーっとしていたが、急に立ち上がり、部屋を出ていった。 「どうしたのかな?」 エリーが首をかしげていると、すぐにキュルケは戻ってくる。 「二人とも、出かける用意して!」 キュルケはうきうきとした顔でそう言った。 「え……なんで?」 「ルイズと、あの使い魔くんが出かけたみたいなのよ。二人きりで、馬に乗ってね」 「へえ、サイトが……。あれから、仲良くなったのかなあ」 「それをこれから確認するんじゃない」 つぶやいたエリーにむかい、キュルケはにこりと笑った。 「え」 どゆこと? エリーはきょとんとする。 「だから、追いかけるのよ。二人をね」 「……ええーと」 「悪趣味」 コメントに困るエリー。一言で片づけるタバサ。 「というわけで、タバサ。あなたの力を借りたいんだけど……。お願い、あなたの風竜じゃないと、追いつけないの」 キュルケは手を合わせてウィンクをする。 タバサはしばらく黙っていたが、静かにうなずいた。そして、窓を明けて口笛を吹く。 ばさり、ばさり。 巨大な羽音をたてて、タバサの使い魔であるドラゴンが舞い降りてくる。 「うひゃあああ……」 その姿にエリーは見惚れるしかなかった。 風竜は大きなくりっとした瞳で主人を、そしてエリーやキュルケを見つめ、きゅい、と鳴いた。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 「あなた、だあれ?」 「はい?」 いきなりの言葉に、エリーは間抜けな声を上げてしまった。 エルフィール・トラウム。 通称エリー。 年齢16歳。6月18日生まれ。ふたご座。 故郷はロブソン村。 昨年の九月から、ザールブルグのアカデミーで学んでいる錬金術士の卵。 なのであるが。 ――ええと、これ、どうなってるのかな??? 今ひとつ、身に起こっている状況が理解できない。 昨日8月1日、アカデミーのコンテストを終え、一息ついたばかりだった。 すぐに結果を見に行こうかとも思ったが、散らかりっぱなしになった部屋をちょっと掃除しようと思い直し、まず、大事な参考書をまとめて、 (本棚に、整理しようと思ったんだよね……) 初等から高等までの錬金術講座、健康大好き、火薬のしくみ、自分で作れる薬、総合百科事典といったアカデミーで購入した参考書。 これだけの量になるとさすがに重い。 ちょっとふらつきながらも、それを本棚へ持っていこうとしたと振り向いた時、何かキラキラとした鏡のようなものが見えた。 そして、気がついた時には見知らぬ場所に立っていた。 目の前には、赤い髪をした綺麗な女性。 ザールブルグでは見慣れない服装。赤い髪に、褐色の肌という見慣れない顔立ち。 「ええと……」 どうしたらいいのだろう? 対応に困っていると、赤い髪の美女はつかつかとエリーに近づいてくる。 ようく見ると、年齢にそれほど開きはないのかもしれない。 ただその体型には、だいぶ差があったが。 褐色の少女はしばらくの間、じろじろと上から下までエリーを見ていたが、ふうとため息をついた。 「私は、キュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。あなたは?」 エリーはしばし絶句していた。 これは、名前を名乗ったのか? 魔法の呪文か何かじゃなくて? しかし、どうやらそうらしい。 「エルフィール・トラウム。親しい人は、エリーって呼びます……」 エリーはおずおずと返事をする。 「トラウム……」 キュルケと名乗る美少女は、しばらく考え込んでいた。 「あまり聞かない名前だけれど、どこの国のかたかしら?」 「どこって……そりゃあ、シグザールですけど?」 「しぐざーる???」 キュルケの顔に、いくつものハテナが浮かぶ。 何か、妙なことになっている。 そもそも、本当にここはどこなのだ。 次第に、エリーの心に不安の雲が浮き上がり始めた。 「ちょっと失礼」 不意にちょっと頭の寂しい中年男性が話しかけてきた。 その頭に、エリーはよく世話になっている武器屋のおやじさんを思い出した。 「私は、このトリステイン魔法学院で教鞭をとっているコルベールというものだが……」 「はあ……」 魔法学院? アカデミーと似たようなものだろうか? しかし、トリステインとはなんだろうか。 「君は、そのメイジ……貴族なのかね?」 「はい?」 いきなりのおかしな質問に、エリーは目を丸くする。 「違います」 「違う?」 反応したのはキュルケだった。 「あの、メイジって何ですか?」 そうエリーが言った途端、まわりから失笑が飛んだ。 「メイジを知らないだって?」 「どこの田舎者だよ、こいつ!」 「魔法使いといえばわかるかな?」 笑う周囲を片手で制し、コルベールは質問を続けた。 「ああ、それなら……。っていうか、私は魔法使いじゃないです。錬金術士……の卵というか、学生です」 「学生? しかし、君は今貴族ではないと……」 言いかけてから、コルベールは少し黙り込む。 「トリステイン、ゲルマニア、あるいはハルケギニア、これらの国名、地名を知っているかね?」 「どこですか、それは……?」 「……すまないが、その本を見せてくれないだろうか?」 「あ、はい」 コルベールはエリーの持っている本を一冊取り、ぺらぺらとページをめくる。 キュルケも横からそれを覗いているようだった。 「ふううむ。いい紙だな……。装丁もなかなか。しかし、見たこともない文字だな……」 「あのう……?」 エリーが声をかけるが、コルベールには聞こえていないようだった。 「ミス・ツェルプストー、どうやら君の召喚した使い魔は、はるか遠方からの来訪者らしい」 「使い魔……。やっぱり、この子が?」 キュルケは困ったような顔でエリーを見る。 「これは、伝統なのだよ」 「やっぱりねー……?」 やれやれと肩をすくめ、キュルケはエリーへと近づく。 「……あ、あの?」 「まあ、これはこれで面白いかもね」 キュルケは気を取り直したように微笑んで、杖をエリーに向かって振った。 「我が名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 それから、ひどく手馴れた動作で…… エリーの唇を奪った。 「……!?!?!?」 いきなりの、それも同性からの行為に、エリーは抱えていた本をばさばさと取り落とす。 「な、ななな……なな、何するんですか!?」 「あら、ちょっとキスしただけじゃない。もしかして、初めて? 見た目どおり初心なのねえ」 キュルケはあわてるエリーに対し、コロコロと笑ってみせる。 「そ、そういう問題じゃあ……ぐう!!」 文句を言おうとした矢先、エリーは全身に熱いものを感じた。 ほんの一瞬だが、たぎるマグマのようなものが頭を中心に全身に駆け巡ったような、そんな感覚だった。 「ふむ。ちゃんとルーンは刻めたようだね」 コルベールは使い魔のルーンが刻まれたエリーの額を覗きこんでから、満足そうにうなずく。 「よろしい、ミス・ツェルプストー。使い魔との契約は完了だ。では、次の……」 「ちょ、あの……」 あわてるエリーの肩を、キュルケがぽんと叩いた。 「これから、よろしくね、使い魔さん。まあ、悪いようにしないから、安心してちょうだい♪」 男だったら、蕩けてしまいそうな笑みを向けられ、エリーは曖昧にうなずくしかなかった。 これからどうなるんだろうと不安を抱えながら、とりあえず落とした本を拾うことにした。 向こうのほうでは、モグラだー、カエルだー、フクロウだとか歓声が聞こえてくる。 (何やってんだろ?) 振り向いたエリーは、青い髪の女の子の前に、青いドラゴンが立っているのを見て、石のようになってしまった。 そのため横で、さすがタバサね、と言っているキュルケの声は聞こえなかった。 「……つまり、その、サモンなんとかは呼び出すだけで、帰す呪文とかなくて、それ自体も使い魔が死なないと無理。つまり、帰る方法はなしってこと……?」 「そういうことになるわねえ」 キュルケはちょっとばかりばつの悪そうな顔で言った。 「無責任……」 「……考えてみればそうようねえ。でも、人間が召喚されるなんて、前例のないことだから」 「前例がない? でも、私の他にも人間を召喚した子がいたじゃないですか」 儀式の最後のほうで、何度も失敗していた桃色の女の子が召喚したのは、エリーと同じ人間だったのだ。 こちらは、少年だったが。 興味とか親近感がわいたものの、少年は混乱して桃色の子と口論しっぱなしで、エリー自身もかなり混乱していたので、遠目から見ているだけだった。 「ああ、あれねえ。私もあなたを召喚しなかったら、さすがゼロのルイズってとこだったんだけど」 キュルケは苦笑しながら、軽く髪の毛をかき上げた。 「だけど、こうなった以上あなたの生活は私が責任持つわ。約束する。もしかしたら、帰るための魔法もあるかもしれないしね。代わりといっては何だけど、あなたも当面私に使い魔やってくれると嬉しいんだけど」 「それはまあ……でも、使い魔って具体的にどんなことするんですか?」 使いというぐらいだから、お手伝いみたいなこと……手伝い妖精さんみたいなものだろうか? ――そういえば、妖精さんたち元気かなあ……? エリーは普段仕事を手伝ってもらっている妖精たちのことを思い出した。 月々定額のお金を払えば、調合から採取まで、錬金術士の仕事を手伝ってくれる妖精たち。 時間のかかる作業の多い錬金術のおいては非常に助かる存在だ。 「そうねえ。まずは、感覚の共有。主の目となり耳となる……つまり、エリーの見てるもの、聞いてることが私にもわかるようになるってことなんだけど……なんかダメっぽいわね」 「ダメですか」 「使い魔になったら、自然に備わる能力のはずなんだけど……。人間だからかしらね? 次は主人に必要なものを持ってくること」 「採集みたいなもの?」 「何それ?」 「ええと、つまり、薬とか爆弾とかを作るための材料を集めたり……」 「ば、爆弾? まあ……。そうね、大体そんな感じよ」 「似たようなことはやってから、できないことはないと思うけど……でも」 「? でも?」 「そういうのは、たいてい外ですよね? このへん、魔物とか盗賊とか出ます?」 「魔物……。そうねえ、森の深いところだと、オーク鬼とか出るらしいわ。見たことはないけど、旅商人とかが襲われたって話は時々聞くわ」 「それじゃあ、ちょっと無理かも。ザールブルグにいた時は冒険者さんに護衛してもらってたんですけど」 「ああ、別に気にしなくてもいいから。そんなとこに薬草だのキノコだのとりにいけ、なんて言わないから」 言葉に濁すエリーに、キュルケはつとめて明るい声で言った。 ――こりゃ、使い魔は主人を守る……なんて言えないわねえ。 真面目な子らしいので、そんなことを言うと相当に気に病んでしまうかもしれない。 「それはそれとして、あなた、何かと特技とかないの? 歌がうまいとか、料理が得意とか」 「ええと、まだ学生だけど、錬金術で色々……」 「錬金術か……。それは、錬金の魔法とは違うの?」 「違います。ええと、その、何ていうか、色んな薬やアイテムを作り出す術で……」 エリーの言葉を聞きながら、キュルケはきゅぴーんと目を光らせた。 「へえ? それでどんなものが作れるの?」 「フラムとか、アルテナの水とか……あ、材料と道具があればですけど……」 「何かよくわからないわねえ? 具体的にどんなものなの?」 質問するキュルケに、エリーは参考書をいくつ開きながら、道具やアイテムについて説明する。 「ふうん。フラムってのは、簡易型の爆弾なわけね……。アルテナの水ってのは……一種の滋養強壮の薬か」 エリーのしめす参考書の絵を見ながら、キュルケは面白そうに何度もうなずいた。 「ねえ? エリー、あなた、道具や材料があれば作れるって言ったわよね?」 「え? ええ」 「だったら、私が都合してあげるから、色々と作ってみてよ」 「それはいいですけど……私、まだそんな大したものは作れないですよ?」 「それでもいーから♪ 何か、その本読むあなた見てたら、妙にわくわくしてきちゃった」 そういってキュルケは、その大きなバストをぺたりとエリーにくっつけてきた。 とまどっているエリーに対して、キュルケは不思議な予感に胸を躍らせていた。 最初人間、それも見たことも聞いたこともない辺境の田舎娘を召喚したとわかった時は、ちょっとがくっときた。 でも、エリーを見ているうちにそんな気分は次第に薄らいでいった。 何故だろう。 ブラウンの髪の毛に、ブラウンの瞳。 いかにも野暮ったい田舎者という雰囲気だけど、顔立ちは悪くない。いやいや、むしろ磨けばぴかぴかに光りそうな素質があるとみた。 不思議な感じの異国の衣服。錬金術という見知らぬ技術。 どきどき、わくわく。 まだ幼い頃、恋の情熱よりも、寝る前に聞いていたおとぎ話や遠い異国の話に胸を躍らせていた日々を思い出す。 「ねえ、エリー、あなたの国のこと、色々と聞かせて?」 そう言って、キュルケはエリーに笑いかけた。 となりからは、何か争うような男女……いや、少年と少女の声が聞こえていたけど、あえて無視する。 「……何か、怒鳴り声が聞こえるんだけど?」 「となり。どーせゼロのルイズが使い魔と何か揉めてるんでしょ。負けん気というか、プライドの高い子だからねー。ま、気にしないでいいわ」 キュルケはアハハと笑うが、エリーのほうは落ちつけない。 「となりのことなんか、ほっといて。ほら、あなたのこと色々話してよ」 「うーん…………。あれ?!」 うながされたエリーは何からどう話そうかと思案していたが、不意に声を上げた。 「どうしたの?」 「月が、二つある――」 エリーは窓の外から見える、怪しく輝く双月を指差して言った。 「あら、そんなの当たり前じゃない。月は二つあるものだって、昔から決まってるわ」 「こ、ここでは……そうなのかな?」 キュルケにたずねるというより、自分で自分に問いかけるようにエリーは言った。 「ここではって、あなたの国では違うの?」 「ええ、月は一つです」 エリーはどきどきとする胸を押さえながらうなずいた。 「ところ変われば品変わるっていうけど、遠い国になるとそんなことも違ってくるのね。ますます面白いわ」 「そういえば……星座なんかは、土地によって見えないものや見えにくいものがあるって聞いたような……」 「へえ。だったら、土地によっては太陽が二つだったり、月がぜんぜん見えないところもあるのかもねー」 「さすがにそれは想像できないけど………」 キュルケの発言に、エリーは苦笑する。 気がついたら、いつの間にか緊張がほぐれている。 このキュルケという人は、貴族、すなわち大金持ちのお嬢様であるのだろうが、 ――アイゼルとは全然違うなあ。 エリーはプライドと態度の大きな貴族の親友を思い出したが、その豊かなバストを見て、また考えを変えた。 ――どっちかっていうと、ロマージュさんのほうに似てるかな? 男たちを虜にする美貌とスタイルを持つ、南方の美しき踊り子の顔が、キュルケに重なる。 ただし、ロマージュが風なら、さしずめキュルケは炎だ。 ――私、ほんっとーにこれからどうなるんだろ? 幸いキュルケは『いい人』らしく、あまりひどいことにはならないようだが、魔法で当たり前のように宙に浮いたり、モンスターを呼び出して召使にしたりと、この国はあまりにも凄まじすぎる。 「はあ……」 エリーはちょっと息を吐き出してから、自分の国のこと、ザールブルグの街のことを語り出した……。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 「わー……! 高いよー、速いよーー!!」 風竜シルフィードの背中で、エリーは子供のようにきゃいきゃいと騒いでいた。 みっともないと責めるなかれ。何しろ、エリーにとって空を飛ぶなどという経験は初めてのものだし、かつドラゴンの背中に乗るなどおとぎ話の中のものでしかなかった。 それが、今現実として、空を駆けるドラゴンの上に乗っているのだ。興奮するなというほうが無理な注文だった。 シルフィードはエリーの歓喜がわかるのか、歓声が上がるたびに、その動きは優雅に、機敏になっていた。 「相変わらず、あなたの風竜は惚れ惚れするわね」 エリーの隣。キュルケは赤い髪をかきあげながらドラゴンの背中を撫でた。 「シルフィード」 一番前に乗るタバサは無表情のまま言った。 「そうそう、あなたのシルフィードは」 キュルケはその意をくんで、すばやく訂正した。 「ハルケギニアの、魔法使いってすごいんだね……」 はるか向こうの空や山を見ながら、エリーはつぶやいた。 「こんなすごいドラゴンを、使い魔にしちゃうなんて……」 「でしょう?」 キュルケは自慢げに微笑む。 「でも、みんながみんなこんな幻獣を呼べるわけじゃあないわ。メイジの実力を見るなら、使い魔を見ろって言うように、それだけタバサがすごいってこと」 「……」 タバサは何を言わない。が、一見無表情のその顔には、わずかに感情の揺らぎがある。キュルケには、それが“照れ”であることがわかった。 「うふ」 クールな親友の反応に、キュルケは嬉しげに目を細める。 「私、最初シルフィードを見た時、ちょっと怖かったんです……。ドラゴンだし」 「ふーん。あなたの国……シグザールのドラゴンはそんなに凶暴なの?」 「私も、話で聞いたことしかないですけど。でも、ほんの数年前までヴィラント山……ザールブルグからそんなに遠くない山に棲んでたそうです。ものっすごく強暴で強くて、大勢の人間が犠牲になったとか……」 「へえ……」 キュルケはかすかに感嘆の声をあげる。場所は変わっても、竜族の強さは凄まじいものらしい。どこへいっても、最強の種族ということか。 「それ、どんなドラゴンだったの?」 「何でも……赤い体をした大きな火竜だったそうです」 「火竜」 火を吐くドラゴン。火のメイジとしては色々と感じるところのある存在だった。 しかし。 「ねえ……エリー? 棲んでたって…過去形で言ったわよ? じゃあ、今その火竜は?」 「いません。退治されましたから」 あっさりと、エリーは言った。それは、キュルケにしても予想できた答えではあった。しかし、ドラゴンは敵に回せば、並のメイジなんぞ相手にさえならない恐ろしい存在である。 ――それを、退治した? 話を聞いた限りでは、エリーの住んでいた国に、魔法使い、少なくともハルケギニアのようなメイジはいないはず。ならば、誰がどうやって、炎のドラゴンを退治した? キュルケの中でむくむくと好奇の炎が燃え出した。 エリーの言う火竜が、ハルケギニアと同じものとは限らない。しかしシルフィードを見たエリーの言動から考えるに、基本的な差異はないであろう。あるとすれば、韻竜のことくらいかもしれない。 「どんな人が?」 「王室騎士隊長の、エンデルクって人です」 「騎士ね……。うん?」 騎士という言葉に納得しかけたキュルケ。だが、 ――仮にも一国の王室直属の騎士隊長なら、スクウェア……いや、ちょっと待った。エリーの国にメイジはいないはず……。それなら、そのエンデルクという人間は……普通の、つまり平民? 「あの、エリー、ちょっとだけ確認しておきたいんだけど……そのエンデルクって人はメイジじゃないのよね」 「そうですよ。あ、ものすごい剣の達人だそうです」 「それで、火竜を倒した?」 ハルケギニアの常識では、剣は魔法と同列ではない。ことに貴族にとっては、魔法という武器を持たない者が、身を守るために磨いた牙という程度。 シグザールの火竜が、こちらに比べて弱いのか。それとも、そのエンデルクという騎士がとんでもない化け物なのか。 キュルケの頭に、貧弱貧弱ウリリリィィイイイィィィ!なドラゴンと、凶悪な火竜を剣のみで倒す“化け物”のイメージが浮かんだ。 「あの、どうかしたんですか?」 「いえ、何でもないのよー。おほほほ……」 不思議そうなエリーに、キュルケはあわてて笑顔を作った。 ――考えてみたって、始まらないか……。 実際に、その火竜やエンデルクを見れば話は早いのだろうが、それは無理な相談である。 「見つけた」 タバサが言った。同時に、シルフィードがきゅいと鳴く。 「え、ルイズ? どこに?」 キュルケが下を見ると、人を乗せた二頭の馬が道を走っている姿が。そのうち一頭はどうにも動きが良くない。よく訓練されている馬のおかげでどうにかなっているようだが、明らかに下手くそだ。 ルイズと、才人。 「馬にも、バカにされてるわね、あれは……」 才人の“お見事”な乗馬を見ながら、キュルケは苦笑する。 「どうやら、城下町にいくみたいね」 馬の走る方向、その先に見える街を見ながら、キュルケはつぶやく。 「あの使い魔くんに、プレゼントでもしようっていうのかしら……」 「人が多いですねえ……」 街を見回しながら、エリーはつぶやく。 「そりゃあ仮にも、城下町だからね」 「うーん。それだけじゃなくて……」 キュルケの言葉にうなずきながらも、エリーは何かを考えている。 「その、何かせかせかしてるっていうか……」 それは、ここがせわしないというより、ザールブルグがのんびりしているということなのだが、エリーにはそれはわからない。あるいはここにきて、初めてわかったことかもしれない。 「最近物騒だからねえ……みんなピリピリしてるのかもしれないわ。土くれのフーケの噂もあるし」 「“つちくれ”? 何ですか、それ?」 「最近あちこちで暴れてる泥棒よ。正体は不明。ま、メイジらしいってことは確かみたいだけど」 と、キュルケはどこかわくわくしたように言っている。 「メイジって、貴族の人が泥棒するんですか?」 「メイジの全部が貴族ってわけじゃあないわ。中には家が没落したり、勘当されたりで身を落とすやつもけっこーいるの」 「厳しいんですね、ここも……」 「まーね。っと、それよりも、ルイズは……」 「あそこ」 タバサが小さく顎をしゃくった。その先には、ピンクの頭と、それについていく黒い髪。 才人はあちこち見回しながら、アレは何だ、コレは何だといっている。エリー以上に“田舎者”丸出しである。 「何をやっているんだか」 「買い物でもするんですかね? どこ行くんだろう?」 エリーがつぶやいた途端、 「ちゅうか剣屋はどこだよ」 才人が大声で言った。 「へえ、ルイズったら、使い魔くんに剣をプレゼントするつもりらしいわ」 キュルケは面白そうに言った。 エリーも何となく二人の後姿を見ていたが、 「あ」 路地裏のほうをちょこちょこと動く影を見て、そちらを振り向いた。 「今のは――」 一瞬見えたその影は、エリーのよく見知っているものと、酷似していた。 気がついた時には、エリーは影を追って走り出していた。初めてきたばかりの街を一心不乱に。 「ちょっと、エリー!? どこへいくの!? ダメよ、一人で!!」 キュルケもあわてて、それを追う。タバサも本を閉じて続いた。 路地裏を駆け、ゴミ箱を飛び越えて、全力疾走。その果てに、エリーはついに影に追いついた。 「見つけた……!」 エリーの叫びに、影はびくりとして立ち止まり、振り返った。 「やっぱり……そうだ」 “影”を見つめながら、エリーはふるふると震えだす。 「はぁはぁ……エリー、どうしたの、急、に……!?」 「……!」 追いついてきたキュルケとタバサも、“影”を見て立ち止まった。 「こども?」 キュルケのつぶやき。それは“影”の姿を実に的確に表現している。 不思議な形をした緑の帽子と服。それを着込んだ子供。それが“影”の容姿。が、何か、どこかおかしい。 「サイズが変」 タバサの言うとおり、それは人間の子供のようではあるが、その見かけ上の年齢に対して、背丈があまりにも小さすぎる。子供というよりも、小人だ。 「やっぱり、妖精さんだあ」 エリーはしゃがみこんでその小さな相手を見つめ、笑顔を浮かべた。 「妖精?」 キュルケも改めて小人を見る。そういえば、何か不思議な魔力?のようなものを感じなくもないが。 「そんなものが、ここらにいたの? 精霊じゃなくて? いや、それでもおかしいけど」 「精霊に近い。でも、ランクは多分もっと下」 キュルケの疑問に答えるように、タバサがつぶやいた。 「“隠れて”走ってたのに……。人間に僕らが見つかって、こんなに簡単に追いつかれるなんて……」 緑服の妖精は、驚いた顔でエリーたちを見上げている。 「あ、はじめまして。私はエリー。あなたは、妖精さんだよね?」 「そう、僕は妖精のポポル。お姉さんたちは、どうして……ああ、そっか」 緑妖精は不思議そうな顔をしていたが、エリーの腕を見て、納得したようにうなずいた。 キュルケは何事かとエリーの腕を見る。そこには、古い腕輪が光っていた。それは、エリーが“召喚”された時からすでに身につけていたものだ。 ――あれが、何か特別なものだっていうの? 気がつくと、タバサも興味深げに、妖精、そしてエリーの腕輪を見ていた。 「その腕輪をつけてるってことは、その“資格”のある人ってことだね」 資格? と、キュルケは首をひねる。 それは一体何なのだろう。妖精を見る、あるいは見つけることのできる、という意味だろうか。 「それじゃあ、今度からお姉さんのところにもいくね」 「いくって、妖精の森にいけるんじゃないの?」 エリーが言う。妖精の森。またファンタジーな言葉が出てきた。 「森に来る? これないこともないけど……まわりは人間にはものすごく危険なところもあるから、ちょっと無理だと思うけど」 「……そっか、ザールブルグとは違うんだ」 エリーはつぶやいた。少しだけ寂しそうな顔で。 「――で、いいの?」 タバサが言う。 「え、なにが……って、そうそうゼロのルイズのこと忘れてたわね…………うーーん」 キュルケは考えながら頭をかく。 「まあルイズのことはとりあえずいいわ。子供じゃないんだし」 「……そいじゃお姉さん、またねー」 そうこうするうちに、ポポルは手を振って駆けて行ってしまった。 「……良かったの?」 キュルケはエリーに言った。 「ええ。こっちにも妖精がいるんだって知って、ちょっと安心しちゃった……」 「私としては、面白いものに会えたし、いいんだけどね」 キュルケは苦笑いを浮かべる。 「せっかく街にきたんだし、お茶でもしていきましょうか?」 「……気まぐれ」 そう言いながら、タバサは妖精の駆けていったほうを見ている。よほど興味を引かれたのか。 「お茶のついでに、色々見ていきましょう。あなたに必要な道具や薬も見つかるかもしれないし」 キュルケはエリーの腕を引っ張って、表通りに向かって歩き出す。 「あ……はい」 少しぼうっとしていたエリーは、うなずきながらそれに従う。 タバサはそんな二人にため息をついてから、もう一度妖精の去ったほうを振り向いた。 ――妖精……。何かわかるかもしれない。 青い髪の少女の頭に、ある女性の姿が思い浮かぶ。 人には難しいことも、精霊に連なるものであるなら、解決する術を持っているかもしれない。 タバサはキュルケに呼ばれるまで、じっとその場に立ち尽くしていた。 で、結局。 「うーん、これなんかいいんじゃない?」 「あの……ちょっとハデなんじゃあ……」 三人は服屋であれこれ物色をすることになった。もっというなら、エリーがキュルケの着せ替え人形みたくなっていた。タバサは我関せずでこんな場所でさえ本を読んでいる。 「あら、これくらい。平民の女の子だって着てるわよ」 「でも、ちょっと露出が多いような……」 「そう? じゃあ、こっちは? このシックな感じなら、エリーにも」 「へえ……素敵かも……。え、エキュー? 金貨で……枚? ひいい!」 高すぎる、とエリーは悲鳴を上げた。 「大丈夫よ、これくらい。私のポケットマネーでどうとでもなるから」 「いや、でも…こんなに……」 キュルケの選ぶ服はいずれも、派手ではあるが趣味のいいものばかり。しかし値段のほうも、エリーの感覚からすれば、洒落にならないものばかりだった。 エリーとて、年頃の少女である。おしゃれにまるで興味がないわけではない。だが、“優先順位”では常に錬金術が上位にある。錬金術の中では、貴金属や装飾品を作るものもあるが、それらはあくまで研究の過程、研究成果として価値があるのだ。 別の場合でも、あくまで“商品”としての価値であり、自分が着飾るという発想はなかった。 「あの、やっぱり、こういう高いのは……それよりも、もうちょっとこう汚れても困らないようなやつとかが欲しいんですけど」 「そーお?」 キュルケはちょっと不満そうだったが、すぐに納得したらしく、 「じゃあ、それはそれで買うとして……普段着や余所行きの服ってことで」 もう少し庶民向けの服から何着か選び出してきた。 エリーはキュルケの押しの強さに、少し引き気味になってしまう。 そこに。 「もう、冗談じゃないわよ、あの親父ッ!!」 店の前を、文句を言いながら一人の少女が通り過ぎた。その横には、疲れたような顔の少年。 「あれ、サイト?」 エリーはつぶやく。 「サイト? 使い魔くん?」 エリーの言葉に反応し、キュルケも店の外を見る。 ぷりぷりと機嫌の悪いルイズと、面倒くせえなあ、という顔の才人が歩いていた。 「っと……いけない、いけない。通り過ぎるところだったわ。サイト、こっちよ」 ルイズはちょっとあわてたように引き返し、エリーたちのいる服屋に入ってきた。 「男ものの服がほしいんだけど。これにあうのを見繕ってちょうだい」 ルイズは親指で才人を指しながら、店員に言った。 「あら、ルイズ? 素敵なハニーに服のプレゼントかしら?」 キュルケはにんまり笑いながら、ルイズに呼びかけた。 「え? えええ?!? ちょっと、何であんたらはここに!?」 「あら、私はエリーと一緒に服を買いにきただけよ? それとも、私たちがここにいちゃまずい理由でも?」 「ジョーダンじゃないわよ! ただでさえ気分悪いのに、何でツェルプストーと……!」 「……よう、エリーも買い物?」 フンガーフンガーとやかましい“主人”にかまうことなく、エリーを見た才人はちょっと照れくさそうにたずねる。 「ま、まあ、そうかな? サイトも?」 こっそり尾行してきたというのがあるだけに、エリーはちょっとたどたどしい態度。しかし、サイトはそれに気づいた様子もない。 「ああ、まあな? うちの“ご主人様”が剣を買ってくれるつうから……。でも、買えなかったけどな」 「なんで? いいのなかったの?」 「まあ、なんつうかなあ…。剣ってけっこう高いもんらしくってさ。まともな大剣なら、最低でも二百とか、そんなんだと」 「大剣?」 エリーは一瞬きょとんとする。どう見ても筋骨隆々とはいえない才人の体格からは、そんな重量のある武器を選ぶとは予想できなかったのだ。 「で、結局適当なのがなくて、親父に悪態ついて店出ることになったんだよ。で、代わりに、服でも買ってやるって……」 「ふーん。でも、そのほうが良かったかも。サイトの服、ここじゃちょっと目立ちすぎるもの。私も人のことは言えないけど」 「そうかもな」 才人は自分の服を見下ろしながら苦笑する。 「ちょっと、いつまでもツェルプストーの使い魔としゃべってるんじゃないわよ!! 他の店に行くわよ、他の店に!」 ルイズが才人の首根っこをつかんだ。 「うあっと…! じゃ、じゃあなエリー……おい、引っ張るなよ!?」 「うっさいうっさい! いいことサイト!? あんた、ツェルプストーの使い魔と口きくの禁止!! 絶対!!」 「な、何だよ、それ。横暴だぞ!!?」 「そうよ、エリー? そういう野暮はよろしくないんじゃなくて」 にやにやとしたキュルケが口をはさむ。 「うるさい、うるさーーい!!」 ルイズが大声で叫びながら、飛び出すように店を出て行った。才人を引きずって。 「……相変わらず、すごいなあ……」 「というか、まわりに迷惑」 半ば呆然とするエリーに後ろで、タバサがつぶやいた。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 才人の話を聞きながら、エリーはどうしたもんかねえ、といった顔をした。 ちなみに、才人はただ口論になったとかいうことだけを語り、エリーやキュルケに関してのルイズの発言は黙っていた。 腹の立つことではあったが、わざわざ本人たちの前で言うのもどうよ、と考えてのことだった。 「……で、そのルイズさんと喧嘩してごはんもらえなかったの、要するに?」 「左様」 「左様って……」 どこか芝居がかった態度で、他人事のような顔をして答える才人に、エリーは苦笑する。どうも彼なりの見栄というか照れ隠しらしい。 「あの、ヒラガさん、でしたっけ? 貴族のかたにそんな態度をとっては大変ですわ」 シエスタはかすかに顔を青くしてそう言う。 「へん。いいんだよ、あんなの。貴族だか山賊だか知らねーけど、魔法が使えるからって威張りやがって。つーか、あのおピンク頭はその魔法すら使えねーんじゃねーか! ぼっかんぼっかん爆発起こすだけで」 才人は悔しげに言ってから、うつむいた。腹が減っているのに大声を出して、がくりと疲労がきたのか。 「まあ、“ゼロ”のルイズらしいって、言えばらしいかもね」 キュルケは赤い髪をかきあげながら、皮肉な笑みを浮かべた。 彼女の生まれ育ったゲルマニアは、トリステインに比べれば貴族=メイジの地位は絶対ではない。 「確かに魔法が使えるに越したことはないわ。でもね、ゲルマニアで一番ものをいうのは、これ。これを稼ぎ出す能力よ――」 キュルケは昨夜、エリーにそう断言している。親指と人差し指で○をつくって。 「それで、どうするの使い魔さん? 私としては、またあなたに食事をわけてもいいんだけどね。……面白いし」 才人に向かい、つやっぽい笑みを浮かべながらキュルケはたずねる。面白いというのは、その後で起こるべくして起こるであろう事態をさしてのことだ。 すなわち。 「でも、キュルケさんにごはんもらったら、お仕置きなんだよね……?」 エリーが複雑そうな表情で言った。 お仕置き。 その言葉を聞くや否や、才人はがっくりと肩を落とした。 「やっぱ、めしと寝床を押さえられてるのが痛いよなあ……。ちっきしょう……」 「うーーーん…………」 目の前で途方に暮れている“使い魔仲間”に、エリーは小さくうなってしまう。 助けてはあげたいのだが、それをすれば後々才人がひどい目にあうのは間違いない。 ちらりと横目で見ると、キュルケはむしろそうなること、ルイズがぷっつんして暴れるのを期待しているように思われる。 「あのう? もし、私たちの食べている賄いでよろしかったら……。それなら、大丈夫なんじゃないでしょうか?」 横から、シエスタが声をかけてきた。 「え? ホントに!?」 「良かったねえ、ヒラガくん」 楚々としたメイドの声に、才人はパアーッと顔を輝せ、エリーもほっと胸をなでおろす。 キュルケだけはちょっと残念そうな顔をしていたが、やがて、まあ、いいかと肩をすくめる。 やっぱ、拾う神はいるんだ。才人は心中密かに今日から神様を信じようかなどと思っていたりした。 「おいシエスタ、何だそいつらは?」 そう言ってエリーと才人をジロリと睨んだのは、やや太り気味でいかつい風貌のコックだった。どうやら厨房の責任者であるらしい。 見たところあまり歓迎しているような態度ではない。確かに厨房へ素人がウロウロ入り込まれては迷惑ではあるのだろうが。 それにしても、心地のいい視線ではない。 特にエリーに向けられる視線は、厳しいというか、小さな敵意のようなものが含まれているようだった。 マルトーと呼ばれるその男の視線に、エリーと才人は思わず顔を見合わせた。 「あの、こちらは……ミス・ツェルプストーとミス・ヴァリエールの……」 「ああ、人間が使い魔としてきちまったってな。話は聞いてる」 とりなすように経緯を説明するシエスタの言葉に、マルトーはエリーと才人を交互に見比べる。 「こっちの坊主は見たこともねえ格好だが……。そっちの嬢ちゃんはメイジじゃねえのか?」 「違いますよう」 緊張に耐えかねたエリーは、いっそ哀れみさえおぼえるような声で言った。 「だから、私は貴族でも魔法使いでもありませんって。錬金術士です。見習いというか卵ですけど」 「錬金って、そいつは錬金の魔法じゃねえのかい?」 「あんな便利なことはできません」 エリーはシュヴルーズの見せた錬金魔法を思い出しながら断言する。 杖を振っただけで石を別の金属に変質させる。そんなことはイングリドのようなベテランですらできないだろう。 確かにアカデミーの中には、魔法を操れるものもいるにはいる。ノルディスやアイゼルなどがそうだった。 だが、それらもどちらかというと護身用のためのものであって、ここハルケギニアのような、それこそエリーから見れば何でもアリの便利な代物ではない。 「ふうん? まあ、何でもいいやな。それで、そっちの坊主は……飯だったか?」 マルトーはシエスタに言った。 「はい。何でもミス・ヴァリエールから罰を受けて食事を抜きにされたそうで」 「…ったく、勝手に呼びつけといていい気なもんだ。これだから貴族って連中は……。で、そっちはそれとして、嬢ちゃんは何だったてんだ? あんたも飯抜きにされたのか?」 「いえ。そういうんじゃないです。ええとですね、ホウレンソウがあったら、いくらかわけていただきたいんですけど」 「ホウレンソウ? ホウレンソウって、あの野菜のホウレンソウか?」 マルトーは目を丸くしてエリーを凝視した。 「そうです」 エリーはうなずいた。 「生のままでか? 何に使うんだ、そんなもん?」 「薬の材料に必要なんです」 「薬? やっぱあんたメイジか? しかし……ホウレンソウ? あんたの国じゃ、そんなもん秘薬の材料に使うのか?」 「秘薬っていうほど、たいそうなものじゃないですけど。滋養強壮によく効くって評判です」 エリーはちょっと照れくさそうに笑った。 ホウレンソウを材料として作る薬・アルテナの水は飛翔亭で受けた依頼で何度もこなしているので、調合にはちょっと自信を持っているアイテムなのだ。 「ま、まあ、いいけどよ……」 エリーの顔を見ながら、マルトーは指で頬をかいた。 今ひとつ正体がよくわからないが、悪い娘ではないらしい。そのように判断したのか。 そんなマルトーに、エリーは頭を下げた。 「ありがとうございます。あの、お礼とかは何もできませんけど……」 「別にそんなもんは……。いや、そうだな。だったら、シエスタを手伝ってやってくれねえか? これからデザートを運ぶんでな」 「まあ、そんなこと……!」 「わかりました! お安い御用です」 シエスタは驚いたが、エリーはとんと胸を叩いて了解した。 「でも、エリーさん」 「いいの、いいの。気にしないで」 「あの――俺も何か手伝えることないかな?」 才人が言った。 「ヒラガさんまで」 「いや、こっちだってただ飯食わせてもらうより、何かしてからもらったほうが。何ていうか、気が楽だから」 「話は決まったな。人手があるほうがさっさと片付くってもんだ。シエスタ、遠慮しないで手ぇ借りな」 「そうだよ、遠慮なんかしないで」 マルトーがシエスタに笑いかけ、エリーもそれに同調した。 「そうですか……。それじゃあお二人とも、お願いしますね」 エリーと才人、それにマルトーを見ながら、シエスタは控えめな微笑を浮かべた。 「ええと、ところでさ」 才人がちょっと声の調子を変えて、エリーとシエスタを見た。 「俺のことは、名字じゃなくて、名前で呼んでくれないか? 何か平賀って呼ばれると、どうも……」 「え? ヒラガが名前じゃないの?」 エリーが首をかしげた。シエスタも同じような顔をしている。 「俺の国では、名字つうか、家名? それが前に来るんだよ」 「へえー。そうなんだ……。じゃあ、改めてよろしくね、サイト」 「ああ、よろしく……」 「お二人とも仲が、よろしいんですね?」 エリーと才人を見て、くすりとシエスタが笑う。 エリーは、そうかなあ? とのんきな笑顔で言った。才人はかすかに照れたような表情になったが、エリーは気がついていないようだった。 しばらくして後。エリーは白いエプロンをつけて、トレイのケーキを配って歩いていた。 才人は少し離れたところで、エリーの持っているものよりやや大きめのトレイを手に、シエスタと二人で配っている。 「はあい、エリー」 いくらか配り終えたところで、エリーは声をかけられた。 キュルケだ。 褐色のつややかな少女は、手をひらひらさせながらエリーに笑いかける。 「ホウレンソウもらいにいくーとか言ってたのに、何やってるの?」 「ホウレンソウのお礼、かな?」 「ふーん……? まあ、いいわ。私には、イチゴケーキをちょうだいな」 「え? ケーキ、一種類しかないだけど……」 エリーはあわててトレイに目をやる。その様子を見て、キュルケは小さく噴き出した。 「冗談よ」 「もー、脅かさないでください。ドキッとしたじゃないですか」 エリーは小さく頬を膨らませた。ちょっとハムスターチックだ。 「ごめん、ごめん。エリーって、何か可愛いから、ついね」 そうキュルケが言った、そのすぐ後だった。 何やら、大きな笑い声が響いた。 振り向くと金髪の端正な顔をした少年を中心に、数人の男子生徒が談笑をしている。 内容は、誰それと付き合っているかいないとかいう、まあ、ありふれた話題のようだ。 しかしエリーはしばらく輪の中心にいる少年から目が離せないでいた。 なるほど、いかにも貴族然とした美形である。胸のさした薔薇もよく似合っている。 しかし、エリーが受けた印象は、貴人というより、奇人だった。 (何か、変わった人だなあ………?) 「ねえ、エリー、早くケーキちょうだいな」 「あ、ごめんなさい」 キュルケの声に、エリーはあわてながらも器用な動作でケーキを皿の上に置く。 「ひょっとして、あのギーシュに見とれてた?」 「え? いや、そーじゃないですけど……」 エリーがちょっと引きつった笑みを浮かべた。まさか、変な人だと思いました――というわけにもいかない。 キュルケは、ふーんと探るようにエリーを見つめていたが、不意に視線を別の方向をやった。 「あれ? ルイズの使い魔くんじゃない」 ちょうど才人たちがケーキを配っているところを見つけたらしい。 「うん。サイトも一緒に手伝ってるんですよ」 エリーがそう言って振り返ると、才人はギーシュに何か話しかけているようだった。しかしギーシュのほうはそれに応じない。才人はムッとしながらも床から何かを拾ってテーブルの上に置いた。 ギーシュはそれに対し何か言っていたようだが、急に周囲の少年たちが何やら騒ぎ出した。 その後はまさに急展開だった。 ギーシュが何か弁解をしていると、茶色のマントを着た女の子が出てきて泣き始めたかと思うと、ギーシュにびんたをかまして走り去ってしまった。 おちつく間もなく、今度は巻き毛の女の子が出てきた。巻き毛の子は何事かギーシュと話していたが、ワインを頭からギーシュに浴びせてから一声怒鳴りこれまた去ってしまった。 「………何あれ」 あっという間に起こった修羅場を見て、エリーは呆然としていた。 キュルケは口元を押さえてかすかに身を震わしている。笑いをこらえているのだ。 そばで修羅場を見ていた才人は、芝居がかった仕草で顔を拭いているギーシュをケッという顔で見ていたが、すぐに歩き出した。 ギーシュがそれを呼び止める。 何やら両者は話しているが、どうも穏やかな会話ではなさそうだ。シエスタも青い顔をしている。 エリーは嫌な予感を覚えて、才人のほうへ駆け寄った。 君が軽率に―― 二股かけてるお前が悪い―― いいかい、給仕君。僕は―― どっちにしろ、二股なんかすぐ―― ふん、ああ君は―― どうやらギーシュは修羅場の起こった責任を才人に求めているらしい。 しかし。 「……平民に貴族の機転を期待した僕が馬鹿だった。行きたまえ」 エリーがすぐに駆け寄った時には、ギーシュは小馬鹿にした態度ながらも、話を切り上げたようだった。 その態度にエリーはちょっと嫌なものを覚えたが、まず荒事にならずにすんだようなので、ほっとする。 だが、そんなエリーの心境をよそに、才人は目を怒らせてギーシュを睨みつける。 「うるせえキザ野郎! 一生薔薇でもしゃぶってろ!」 その一言に、ギーシュの顔色が変わる。 あっちゃー……。才人のうかつな言動に、エリーは思わず片手で顔を押さえた。 このサイト・ヒラガなる少年、自分からトラブルを招き、なくても作り出すタイプかもしれない。 「使い魔くん……どうやら君は貴族に対する礼儀を知らないらしいな?」 「あいにくと俺はそんなもんのいない世界にいたんでね」 「いいだろう。ならば君に貴族への礼を教えてやる。食後のいい腹ごなしだ」 「おもしれえ」 才人は凶暴な笑みを浮かべた。 「だ、ダメだよ!」 エリーは大声で叫び、才人の肩をつかんだ。 「え、エリー?」 「何で喧嘩なんかしてるの。それに、相手を挑発するようなこと言って」 「それは、あいつが――」 「確かにあの人が二股してたのが一番悪いけど……だからって無意味に喧嘩なんて」 「意味はあるんだよ、可愛らしいお嬢さん」 ギーシュは若干顔を引きつらせながらも、キザな仕草でエリーに言う。それに対し、才人はさらに表情をこわばらせた。 「彼はこの僕を侮辱してくれた。それ相応の対応をしなければ、面子にかかわるんだ」 わかるだろう? とギーシュはエリーに言った。妙に色気を含んだ声である。 先ほど修羅場を体験したばかりであるのに、こりていないのだろうか。 「上等だ、この野郎!」 「ダメ、やめて!」 才人はギーシュに詰めよろうとするが、エリーは必死でそれを押さえる。 「離してくれよ! こいつ、ぶん殴ってやる!」 「どうして!」 「あいつ、けっこう可愛い子と二人も付き合ってやがった!!!!」 「…………え――?」 才人はおまけに俺を……とさらに叫ぼうとしたが、エリーの眼を見て動きを止めた。 「あの……可愛い子と付き合ってから、喧嘩を?」 エリーは目を丸く才人を見つめる。 シーン……。 しばらく、沈黙が周囲を包んでいた。 「ぷふぅ!!」 それを破ったのは、ギーシュだった。顔をおたふく面みたいにふくらませて噴き出したのだ。 「ど、どうやら僕は、君にひどく残酷なことをしてしまったらしい……。いや、薔薇の存在自体が君には残酷なのかな? す、す、すまなかったね。謝るよ……」 ギーシュは爆笑しそうなのを必死で抑えているという体で、キザったらしく言った。 「愛を受けることができない者に嫉まれ憎まれるのも、薔薇のさだめだ。では失礼――」 そのまま、スキップでもするように席を立って離れていく。 「てめ、待て! こんちくしょう! やっぱ殴る! ぶん殴る!! 待てよ、おい! キザ野郎! アホ! ボケ! うんこ!!」 「だからダメだって!!」 才人はエリーに押さえられながらギーシュに向かって怒鳴りちらす。 しかし、ギーシュは、あははあ、くはーと笑いながら意にもかいさない。何か勝者の余裕という感じだった。 「ちくしょお…! 何だかとってもちくしょおおう……!」 「あのサイトくん、何も泣くことは……」 エリーは床に膝を悔し泣きし始めた才人の肩を叩きながら、子供をあやすように言った。 「そ、そうですよ。貴族と喧嘩にならなくて、良かったじゃないですか……。それに、その、サイトさんにもいつかいい人が……」 シエスタも遠慮がちながら慰めの言葉をつむいだ。しかしそれによって、才人の泣き声はさらに大きなものになった。 そんなエリーたちの様子を遠くから忌々しそうに見ている少女がいる。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール――才人の、“主人”であるメイジ。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 部屋に差し込む朝日を受けて、エリーはゆっくりと意識を覚醒させる。 今日は、コンテストの発表があったっけ。 飛翔亭には新しい依頼が入っているだろうか。 近くの森に行こうかな? そうだ、ミルカッセさんを誘おうか。 半分寝ぼけた頭で考えながら身を起こそうとすると、いきなり胸に何かを押しつけられた。 ――ええ? なに!? ぼよんとした柔らかい感触。それに、何かいいにおいがする。 エリーはベッドの中、褐色の肌をした美女に抱きしめられていた。 その胸に顔がうずまっている。 「わひゃあああ!!?」 思わず悲鳴を上げて、エリーはベッドから転がり落ちた。 腰を打つ。かなり痛い。ついでに、ショックのせいか腰も抜けてしまったようだ。 「何よ、朝っぱら……」 美女は身を起こしながら、ふわあ、とあくびをする。 「エリー、そんなところ何してるの?」 「いえ、あはははは……」 美女、いや、キュルケに声をかけられて、エリーは自分の状況を思い出した。 遠い異国にやってきてしまったという事実を。 身支度をして部屋を出ると、となりの部屋から、桃色の髪をした女の子が出てきた。 いろんな意味でキュルケとは対照的な少女だ。 特に胸とか。 エリーとて体つきは華奢であり、お世辞にも色っぽいとは言えないが、ルイズに比べればまだ女らしい体つきと言えた。 後ろには黒髪をした少年がいる。 二人とも何かぶすっとした表情をしていた。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 キュルケが挨拶をすると、ルイズと呼ばれた少女はぶすっとした顔のまま、挨拶をする。 男の子は、キュルケに、というよりキュルケの胸に見蕩れているようだった。 無理もないが、傍目から見てかっこいいものではない。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケは少年を見て、ニヤリと挑発するように笑う。 「ふん! 悪かったわね! でも、あんたの使い魔だって人間じゃないの!」 ルイズはエリーを睨んで、ふんとそっぽを向いた。 「そりゃあね? でも、これはこれでいいんじゃないかしら。火竜山脈のサラマンダーとか召喚できれば、それはそれで素敵だけど……こんな可愛い女の子を召喚できたっていうのも素敵だと思わない?」 そう言って、キュルケはぐいとエリーを抱き寄せた。 「あ、あんた、男好きかと思ってたけど…………そういう趣味だったの!?」 キュルケの発言にルイズは後ずさり、黒髪の少年も仰天した様子だ。 エリーも目を白黒させて、 「あの、気持ちは嬉しいけど、私、そういう趣味はちょっと……」 「あははは。あたしだってないわよ。それはそうと、せっかく同じ人間を召喚しちゃったんだから、使い魔同士で親交を深める……ってのはどう?」 キュルケは笑って、軽くエリーの肩を押した。 エリーは少しとまどいながらも、黒髪の少年を見る。 黒い髪をした人間というのは何人か知っているが、その顔立ちはエリーの知るどの人種とも似てはいなかった。 強いて言うなら、王室騎士隊隊長であり、剣聖といわれた男、エンデルクが近いかもしれない。 だが、目の前の男の子は、何と言うかいかにも普通の少年で、英雄と謳われたエンデルクとはまるで違う。 しかし、その普通さがかえってエリーの緊張をほどいた。 「私、エルフィール・トラウム。エリーでいいよ」 ゆっくりと微笑み、握手のために手を差し出す。 「あ、俺は平賀才人」 少年も手を差し出し、二人は握手を交わした。 その途端に、ルイズは目を怒らせて、強引に二人の手を引き剥がした。 「ちょっと! ツェルプストーの使い魔なんかと握手するんじゃないの!!」 「何すんだよ!?」 ヒラガ・サイトなる少年は抗議するが、ルイズはそれを聞こうともしない。 「家名も一緒に名乗ってたけど……その子、貴族なの?」 「違うわ。エリーの生まれたシグザールでは、平民にも家名があるのよ」 「――何よ、そっちも平民じゃない。それにシグザール? どこの田舎だか知らないけど、聞いたこともないわね」 ルイズはちょっと安心したような顔で、ふふんと笑った。 「そんな田舎者の小娘、何か役に立つってのいうの? せいぜいメイドの代わりさせるくらいじゃない!」 ――こ、小娘って……。 ルイズの言い草に、エリーは嫌な汗をかく。 確かに小娘には違いない。しかし、目の前の自分と同年齢、下手すれば下かもしれない相手には言われたくない。 エリーは気を落ちつけながら、サイトに話しかける。 「ええと……。私、シグザールって国からきたんだけど。君は?」 「俺は、日本の東京から……」 「ニッポンノトウキョウ?」 「やっぱり、知らないよな……」 「うん、ごめん」 「いや、ここじゃ知ってるほうがおかしいんだろ。何てたって、ファンタジーだもん」 自嘲的な笑いをあげる才人に、エリーは首をかしげるばかりだった。 「このバカ犬! ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くするなって言ってるでしょう!? ああ~~!! 朝から気分悪い!!!」 「いで、いでえ!! 何すんだ、離せよ!? ちぎれ、耳がちぎれる!!」 ルイズはキッとエリーと才人を睨みつけ、その耳を引っ張って歩き出した。 そして、もう一度キュルケを振り返って、ふん!とそっぽをむくと、才人の耳を引っ張ったままいってしまった。 「……なんか、すごい人だなあ(いろんな意味で)」 エリーはまるで嵐でも見送るような目で、ぼそりとつぶやいていた。 「だから楽しいんだけどねえ」 びっくりしているエリーとは対照的に、キュルケは本当に楽しそうに、ころころと笑う。 その様子は、何だか、ちっちゃな子供を、妹をからかっている喜んでいる姉のようだった。 ――本当は、仲良いのかな? 「あの桃色へアーはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は、ゼロのルイズよ」 ここハルケギニア大陸のメイジたちが、あだ名のような“二つ名”を持つことは昨夜聞かされている。 キュルケは火の属性、そして恋多きその気質からのものなのだろう。 「ええと、お友達ですよね?」 「? あたしとルイズが? ……あっはっはっはは! そうね、そんなようなものかしら。いえ、そうね。確かに友達よ。心の友とも書いて心友ってとこね」 エリーが問うと、キュルケは何かつぼをつかれたように大笑いを始める。 そんなようなもの? 何か曖昧な表現だった。 どうも言葉通りの関係というわけでもないらしい。 ――ライバルって、ところかな? エリーは、自分の師であるイングリドと、友人、いや親友とも言えるアイゼルの師ヘルミーナのことを思い出した。 自分とアイゼルもライバルといえば、ライバルだ。 しかし、それを言うならノルディスも、他の生徒たちもみんなライバルである。 イングリドとヘルミーナの場合は、もっと激しく、凄まじい関係だ。 それこそ、宿敵同士とも言えるような関係ではないだろうか。 さらに言うなら、両者の立場は互角の関係、互角の実力だった。 でも、キュルケとルイズの関係は、今見た感じでは、どうにもキュルケのほうが一枚も二枚も上をいっているように見えた。 多分、精神的な余裕はもちろん、魔法の実力においてもそうなのだろう。 「さてと、それじゃ朝のお食事にいきましょうか。ついてきて」 キュルケは見る者を魅了するような優雅な動作で振り返り、エリーに言った。 「あの、本当にここで?」 アルヴィーズの食堂を見まわしながら、エリーはどぎまぎとした顔で言った。 その様子を見て、キュルケは苦笑する。 いかにも田舎からやってきました、と言わんばかりの態度である。 エリーとて、シグザールの王都であるザールブルグで一年暮らしているが、それでもこんな豪奢な場所など縁がなかった。 アカデミーの他の生徒たちと違い、参考書や調合器具、それに生活費は自分で工面しなければならないエリーにとって、豪華な場所で豪華な食事など夢にさえ出てこない代物だった。 もっとも、アカデミーの生徒がほとんどが中流家庭の子供なので、大抵エリーと同じくこんな場所に縁はなかったが。 「あの、私やっぱり違うところで……。場違いだし……」 すっかり萎縮してしまったエリーはすがるような目でキュルケに言った。 しかし、キュルケはチッチッチッと指を振った。 「誰にだって、初めてはあるわ。こういう場所で色々見聞きするのも、勉強ってやつじゃないかしら? 将来役に立つかもしれないでしょ?」 「でも、私は貴族じゃないし……」 「あら? もしかしたら、なるかもしれないじゃない」 少しうつむくエリーに、キュルケはにこりとしてその肩を叩く。 「あなたの国では、平民でもお金を持ってれば、貴族になれるんでしょう?」 「そうですけど……」 確かに、シグザールでは財を成して貴族の身分を得た人間はそれなりにいる。 アカデミーの卒業生でも、錬金術を用いて財産を築き、貴族となった者もいると聞いていた。 ただし、アカデミーではそういった姿勢をあまりよく思ってはいないようだ。 錬金術の根本は真理の探究にあり、宝石や薬を生み出すのはあくまでもその過程にしかすぎないのだから。 といっても、そういった卒業生による援助もかなりのものであるらしく、あまり表立って否定はできないらしい。 「でも、別に私は貴族になる気は……」 「はいはい、いいからいいから」 キュルケはちょっと強引にエリーを席につかせた。 ――まいったなあ……。 エリーはため息をついた。 周囲からチラチラと視線を感じる。 エリー自身はそれほど目立つような少女ではないが、その服装は別だった。 アカデミーにおいては特に変わっているわけでもないオレンジの服だが、この魔法学院においてはものすごく目立つ。 あれは誰だ? どこのメイジだ? 何でキュルケと一緒にいるんだ? そんな声がかすかに聞こえてくる。 エリーがそんな居心地の悪さを覚えている時だった。 「おはよう、タバサ」 キュルケの明るい声に顔を上げると、眼鏡をかけた小柄な少女がそばに立っていた。 ――あ、この子は……。 確か昨日青いドラゴンを召喚していた少女だ。 青い髪と、召喚した使い魔のインパクトのおかげかよく覚えている。 「おはよう」 タバサは一見無愛想とさえ感じる返事をキュルケに返すと、じっとエリーを見つめてきた。 「あ、あの……?」 「この子はタバサ。あたしの友達よ」 タバサの視線にひるむエリーに、キュルケはくすっと笑って紹介をする。 「あ、はじめまして……。私はエルフィール・トラウムです」 何だか、不思議な感じの子だな。そう思いながら、エリーは自己紹介をした。 「タバサ。よろしく」 タバサは実に簡潔な自己紹介をした後、ずいとエリーに近づいた。 「あ、あの……?」 「あなた、昨日本をたくさん持っていた」 「う、うん……」 本。召喚する時に一緒に持ってきてしまった参考書のことだろう。 「良かったら、読ませてほしい」 「え、いいけど……」 「でもタバサ、あの本あたしたちは読めないわよ? 遠い遠い外国の言葉で書かれてるもの」 キュルケがそう言うと、タバサは少しの間黙りこんだ。 やがて、ごそごそと一冊の本を取り出して、エリーに手渡す。 「読んでみて」 エリーは言われるままに本を開いてみたが、まるで読めなかった。文字の構造や形は似通ったものがないではなかったが、基本としてシグザールのそれとは異なる文字である。 「……読めない」 「言葉はわかるのに、文字が読めないっても変よねえ……。言葉がわかるのは多分サモン・サーヴァントの影響なんだろうけど。どうせなら文字も読めるようになってればよかったのにね」 そう言って、キュルケは肩をすくめた。 「じゃあ、教え合う」 タバサが言った。 「ええ?」 「あなたはあの本の、あなたの国の言葉をわたしに教える。わたしはハルケギニアの言葉をあなたに教える」 「うん、いいよ。でも……あの本、錬金術の参考書だから、あまり面白くないかも」 「この世に面白くない本などない」 「そ、そうかな……」 きっぱりと言い切るタバサに、エリーは苦笑するしかなかった。 そして改めてテーブルに並べられた料理を見て、笑みは引きつったものになる。 ――こんなに食べられないよ……。でも、残したらもったないし……。 エリーは決して小食ではない。むしろ健啖家といえるほうだ。 ただし、それはあくまでも一般人レベル、ハルケギニア風に言えば平民レベルの食事での話。 鳥のローストや魚の形のパイといった無駄に豪華は食事は、見ているだけでも胃がびっくりしそうだった。 だからキュルケやタバサが食事を始めてからも、すぐに料理に手をつけられなかった。 ――どうしよう……。……んん? あれは……。 途方に暮れていると、少しばかり離れた、ある場所へ目がとまった。 そこではあのヒラガ・サイトとかいう少年が床に座り込んでパンをかじっているのが見えた。 「ああ、美味い! 本当に美味い! 泣けそうだ!!」 がしがしと硬いパンをかじりながら、才人はやけくそでつぶやいていた。 いきなりわけのわからん世界にやってきたかと思ったら、使い魔だか奴隷だかで問答無用に服従をせまられる。 主とやらが可愛い女の子なんでこれはこれでラッキー♪かと思ったら、そいつがとんでもねーツンツン娘で。 豪華な食事の並ぶ食堂にきて喜んだかと思ったら、他の連中がご馳走をぱくついている横で、自分は残飯みたいなものを食わされている。 やけにならなければ、本当にやっていられない。 ――何が使い魔は外、だよ。そりゃ動物なら、仕方ないだろうけど。俺は人間だっつーの!! 心の中で叫ぶ中、才人はあのエルフィールという少女を思い出した。 キュルケとかいうおっぱい星人の使い魔だとかいう少女。 あの子も、こんな扱いを受けてるんだろうか? そんなことを思いながら、ふと視線を上げると、 ――あれ? 離れた席から、自分を見ている者がいる。 オレンジ色の、ここの生徒たちとは明らかに違う系統の服を着た女の子。 その横には、あのおっぱい星人、もといキュルケが。 ――ええと。 使い魔は外じゃなかったのか? それがルイズ様の“特別なはからい”とやらで、床なんじゃなかったのか? でも、あっちの使い魔さんは何か普通に、一緒の食事してるみたいなんですけれども? このへんどーなんですか、ルイズ様? 才人が内心でルイズにツッコミを入れていると、エリーはそっと才人にむかって手招きをしてきた。 ちらりとルイズの様子をうかがってから、才人は気づかれないようそーっとエリーのほうへと移動していく。 「あの、良かったら一緒に食べない?」 エリーは少し緊張したように才人に言った。 マジですか!? 願ってもない提案に、才人は歓喜で身を震わせた。 「もちろんOK!! っちゅうか……いいの? マジで?」 「うん。私、こんなにたくさん食べられないし、残したらコックさんにも悪いし……」 「だよな!? 出された料理は作ってくれたコックさんに感謝して、残さず美味しく、だよな!」 才人は壊れたような笑顔を浮かべながら、すすめられるままエリーの隣に座る。 捨てる神あれば拾う神あり。 才人は料理とともに、そんな言葉を噛み締めていた。 さっきまではとんでもねー状況だなあと半ば悲嘆しつつあったが、救いの手は意外なところから差し伸べられた。 救われた! まさに才人はそんな気分だった。 「本当にお腹すいてたんだねえ……」 目に涙を浮かべながら料理を口に運ぶ才人を見て、エリーは同情するようにつぶやく。 そんな様子を、キュルケは楽しげに見ていた。 エリーのルイズの使い魔も一緒に食事をしていいかと聞かれ、最初は驚いた。 だが、エリーが異国の人間であり、かつ平民の少女であることを思い出すと、それも消えた。 別にいけないという理由は思いつかず、この後のルイズの反応を予想すると非常に面白かったので、むしろ喜んでOKした。 ルイズのほうを見ると、このことに気づいたらしいルイズはものすごい形相でこちらを睨んでいる。 まったく面白すぎる反応だ。 軽く手を振ってやると、ルイズは今にも爆発しそうな顔で、顔を真っ赤にさせていた。 エリーはそれに気づくこともなく、同じ平民が一緒にいるのが心強いのか、安心して料理を食べ始めていた。 タバサは終始我関せずという態度である。これはいつものことだが。 やっぱり、この子がきてくれて良かった。 キュルケは改めてそう思いながら、ワインを口にした。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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ダンピング症候群 http //anju8959.hp.infoseek.co.jp/danpingusyoukougun.html 本日の自己学習【消化器】 胃、胆、肝、膵、小腸、大腸の解剖生理と消化、吸収の機能 ついでに癌とか ●胃 蠕動運動は迷走神経で↑、交感神経で↓ ペプシノーゲンは塩酸により活性化しペプシンに ペプシンはタンパク質をペプトン(アミノ酸+ペプチド)に消化 がんは十二指腸の方に多い 胃の静脈は門脈→肝臓に流れるので肝転移が圧倒的に多い(肺、骨、脳、腎) ●胆 肝細胞→(左右)肝管→肝門→総肝肝→(胆嚢、胆嚢管)→総胆管→(膵管)→ファーター乳頭(オッディ括約筋) 胆汁(アルカリ性で黄色)の成分(消化酵素は含まない) 胆汁酸、胆汁色素(ビリルビン)、コレステロール ●肝 肝鎌状間膜で右葉と左葉に。下面では尾状葉と方形葉 六角形をした肝小葉が単位 中心に中心静脈、角には小葉間動脈、小葉間静脈(門脈から)、小葉間胆管3本が集まり1つの組を作る 類洞の中を中心静脈に向かって血液が流れる 胆汁は中心静脈から流れる ●膵 十二指腸側から膵頭、膵体、膵尾→脾臓 膵頭と膵体の境界線に上腸間膜動脈がある 主膵管→総胆管→ファーター乳頭 副膵管→副乳頭 外分泌細胞:90% 内分泌細胞:10%ランゲルハンス島 A細胞 グルカゴン B細胞 インスリン D細胞 ソマトスタチン 膵液 糖、タンパク質、脂肪3つを消化 ★糖 アミロプシン:デンプン→デキストリン、マルトース(麦芽糖) ★タンパク質 トリプシノーゲン:エンテロキナーゼで活性化→トリプシン キモトリプシノーゲンみぎ:トリプシンで活性化→キモトリプシン タンパク質をペプチドに分解 プロカルボキシペプチターゼ:トリプシンで活性化→カルボキシペプチターゼ ペプチドをジペプチドまで分解 ★脂肪 ステアプシン(膵リパーゼ):脂肪酸とモノグリセリドに分解 ★膵がん 大部分は外分泌の膵管上皮細胞から 2/3は膵頭部(十二指腸側) 後腹壁にあるため浸潤しやすい→特に血管 上腹部痛、心窩部痛、背部痛、黄疸 黄疸があるときは胆道系疾患もみる(アミラーゼ)→PTCD、ERBD ERCP、MRCP CA19-9、CEA、 DUPAN2(膵がん関連抗原) 150U/ml以下 http //www.srl.info/srlinfo/kensa_ref_CD/KENSA/SRL5231.htm 腫瘍マーカーと疾患の関連 http //www.medic-grp.co.jp/kensa/medical/akusei.html ★リンパ リンパは最終的に胸管に集まり静脈角に入る 静脈角とは内頚静脈と鎖骨下静脈の合流地点 右静脈角には右リンパ本管(右胸管)が入る 右リンパ本管は右頭部、右上肢、右体幹のリンパを集合する 左静脈角には胸管が入る 胸管は第1~2腰椎まで下がり乳ビ槽につながる
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前ページ“微熱”の使い魔 キュルケはその日、いつもよりも数段早く目を覚ました。ふわあ、とあくびをしてから横を見やると、いつも自分よりも早く起きている“使い魔”がまだ寝息をたてている。 無邪気な寝顔。ブラウンの髪の毛がかすかに揺れて、“ひかえめ”な胸が上下している。 キュルケはその頬を軽くつついてみる。 ぷにぷにとした肌ざわり。 何度かつつくと、ううん、とエリーは声をあげる。けれど、起きたわけではない。 エリーの、“ううん”が面白くて、キュルケは何度も頬をつつく。 ぷにぷにぷにぷにぷに。 「……あ、おはようございますう……」 調子に乗りすぎたのか、エリーは目を開けて、むっくと起き上がった。キュルケの扇情的なものとは対照的な、地味で露出の少ない、まあ普通の寝間着。 「おはよう、エリー」 ちょっと残念に感じながら、キュルケは可愛らしい“使い魔”に微笑みかけた。 朝食を終えた後、キュルケは教室へと向かった。その横に、エリーはいない。 大体いつも一緒に授業を受けるのだが、時にエリーは錬金術の調合を行ったり、他の使用人たちを手伝ったりして、錬金術に使う材料をわけてもらったりする。 今日も、新しい調合を試してみたいから、と言って授業にはこなかったのだ。 それに関して、キュルケがどうこう言うことはない。 使い魔とて、四六時中いつも主と一緒というわけではないのだ。まして、エルフィール・トラウムは人間の少女である。 と、何か声がする。見てみると、“ゼロのルイズ”こと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが使い魔と何か言い合っていた。 言い合い、というより、ルイズが文句をつけているのを、使い魔である才人がへえへえと聞き流しているというのが正しい。 あの森で狼に襲われた一件以来、二人の距離は縮んでいるように思われる。いや、ルイズが積極的(おそらく本人の度合いでは、だろうが……)に縮めている。 当初傍目から見ても、険悪な雰囲気であったのに。 今でも仲がいいとは言いがたいが、それでも最初の頃のような殺伐としたものは感じられない。 ――ま、いい傾向よね。 キュルケは微笑する。 あのままの状態が続けば、ルイズはいずれ、“ぷっつん”して、才人のみならず、エリーにまで何かしてきたかもしれない。 何故、エリーが。 それは、才人のルイズへの反抗とか、無関心さは、少なからずエリーのせいでもあるからだ。 本人たち、特にエリーのほうはまるでわかっていないようだが、才人がエリーを憎からず思っているのは、間違いない。 それはまだ恋という炎にもなっていない、種火のようなものかもしれないが、そんなものでも状況次第ではとんでもない炎となる。 特に才人のエリーを見る瞳……は、実に面白い。 時にはそのまま同世代の少女を、時には母親を、時には妹を見るように、エリーを見ている。 最初の出会いからして、才人はエリーにそういうものを抱きやすかったのだろう。 召喚によって見知らぬ土地に連れてこられ、是非もなく使い魔にされて、文句を言えば鞭で叩かれる。 そんな不安だらけの状態で、同じ使い魔という立場にあり、普通に接して、優しくもしてくれる。しかもそれが可愛い女の子とくれば、男はたまらないだろう。たとえ、同性であっても嬉しいはずだ。 ルイズは気に入らないのだろうが、好意を持つなというほうが無理である。 エリーと、才人。 二人とも生まれ育った文化圏はまるで違うものだろう。 けれど、両者ともに、“異なるもの”を受け入れる土壌のようなものがあったようだ。おそらくエリーは環境的に、才人は性格的に。それが反応しあったということもあるかもしれない。 「おはよう、キュルケ」 考えごとをするキュルケに、同級生の男子が声をかけてくる。ただのクラスメートではなく、キュルケの“ボーイフレンド”の一人だ。 「おはよう、ホンドシュー」 キュルケは優雅な仕草で挨拶を返した。 「今日は可愛い使い魔と一緒じゃないのかい?」 「まあね。あら、あなたあの子に興味があるのかしら?」 「いや、そうじゃあなくて……。最近あまり話すこともなかったから、ワインでも飲みながらゆっくりと語り合いたいと思ってね……。今夜あたり、どうかな」 “ボーイフレンド”の提案に、キュルケはふむ……と考える。 そういえば、ここ最近夜のお付き合いのほうは、てんでご無沙汰だった。いくらキュルケといえども、エリーのような少女がいるのに、遊び相手の男を引っ張り込むわけにはいかない。 単に“遊ぶ”だけなら、キュルケから向こうの部屋を訪ねてもよさそうなものだが。あるいは、興味の優劣が男よりもエリーのほうへかかっていたせいもあるかもしれない。 かといって、生来の“男好き”といってもいい気質が変わったわけではないが。 「やっぱり、あの噂は本当なのかい?」 キュルケがどう返答しようかと考えていると、ホンドシューはぼそりといった。キュルケに向けて、というのではなく、思考が無意識に漏れ出たというところか。 「どんな噂よ」 「いや、別にたいしたことじゃあないさ」 鋭く問いかけるキュルケに、ホンドシューはおどけるように言った。ごまかしたつもりだろうか。 「もう一度聞くわ。どんな噂」 柔らかだが、喉元を締め付けるような口調で、キュルケは問いただした。 「本当に、大したことじゃあないんだよ。ただね、その……君が変わった趣味になったとか、ならなかったとか、そんなことなんだ」 「ふーん。へえ。で、私がどんな趣味を持つようになったっていうのかしら?」 「そのだね、つまり、ええと、なんていうのかな? その年下の女の子を可愛がるようになったとか、まあ、そんなことなんだよ」 「は?」 キュルケはわけがわからなかった。受け取りかたによっては、キュルケが下級生の女子でもいじめるようになったととれなくもない。 しかし、ホンドシューの口調などからして、どうもそうではないようだ。そうではなくて、むしろ、この場合は。 「つまり、私が百合の花にでも目覚めちゃったとか、そういう噂かしら?」 百合の花。いわゆる、レズビアン。 「まあ、そういうようなものかなあ?」 「そういうものってねえ……」 キュルケは腹が立つよりもあきれてしまう。ほんのちょっと男と夜を過ごさなかったくらいで、何でそこまで話が飛躍するのだ。 「ばっかばかしい。どうすればそんな噂が出てくるのかしら?」 つぶやいてから、キュルケは気づく。 原因はおそらくエリーだろう。 男好きで有名な女が、男遊びそっちのけで、いきなり女の子にいちゃいちゃべたべた(あくまで偏見だが)し始めたら、なるほど確かにそう受け取られる可能性はある。 それに、年下の子といえば、親友のタバサもそうである。気質はともかく、実年齢より幼く見えるあの少女と仲がいいことと、エリーのそれを関連付ければ、そんな噂が出てくるのかもしれない。 さらにもう一つ。 キュルケはルイズのほうを見た。 ルイズに対して、キュルケが色々とちょっかいを出しているのは、学院でもけっこう知られている。それは性格上のことや、家同士の関係のことが、主な理由(実際そうなのだが)とされていた。 が、それをエリーやタバサのことに関連付けると、好みの子にちょっかいをかける、という図式になりはしないか? あくまで予測。しかし、そうはずれてもいないのでは? キュルケは頭に手をやって、ため息を吐いた。本音では、大声でそれは誤解よ、誤解なのよと言ってまわりたいが、そんなをことしたって無駄なのは、嫌でもわかる。むしろ逆効果――余計に噂をあおるだけだ。 「ホンドシュー、悪いけど……お誘いはまた次の機会に、お願いできないかしら」 さっきまでは、久々だし誘いを受けるのもいいかな? と思っていたが、これを聞いてしまった後だと、何だか噂を消すために遊ぶようで嫌だ。 火遊びはあくまでも、遊びとして純粋に楽しみたいのだ。たとえどう噂されようが。 それがキュルケなりのこだわりだった。 昼下がり頃、ギーシュ・ド・グラモンは物思いにふけっていた。 その傍らでもぐもぐ言っているジャイアントモールの頭を撫でながら。 青春とは何だろうか。恋愛とは何だろうか。 最近、そんなことばかり考えているような気がする。 きっかけは、二股がばれたあの事件からだろう。 ぶっちゃけて言えば、ギーシュはモンモランシーとケティ、二人の少女にふられた。 その直後に起こった、才人とのゴタゴタでギーシュの中では一時有耶無耶になっていたが、一時はあくまで一時。 ふられたことについては、今から考えれば自業自得なのでしょうがない。それでも、ショックはショックだ。 プレイボーイを気取っていたが、モンモランシーのことは本気だった。だから未だに尾を引いている。 あんなことしなきゃ良かった。こうすれば良かった。今さらながら、後悔だけが起こる。 自己嫌悪の悪循環。 こういう場合、自分はどうすべきなのだろうか。 少女たちへの謝罪。それは、すませた。いずれも、許してはくれなかったが。 モンモランシーにはまた殴られ、ケティにはまた泣かれた。 あれ以来、気軽に女の子に声をかけることはできなくなった。 恋愛はゲーム。そう友人たちにうそぶいてみせたこともあったのに、今では恋という言葉や文章を見るも少々つらい。 恋愛博士。 そんな風にマリコルヌに自慢してみせたこともある。 でも、今では。 ――いや、そうじゃない。 ギーシュは首を振る。 恋愛というものには、嫌でも“痛み”がつきまとう。それが両者か、あるいはどちらか一方かの違いはあるだろうが。 それを、理解していなかっただけなのだ。 ふう、とギーシュは頭を抱えた。どうしてネガティブなことばかり考えてしまう。 ある人は言った。世界は観る者の認識によって姿を変える 実際今のギーシュの世界は鉛色の変わりつつあった。 その中で救いといえるのは、愛しき使い魔ヴェルダンデ。 陰鬱な気持ちの中で、もう一度、ヴェルダンデの頭を撫でた時。 とことことことことこ……。 ギーシュのすぐそばを、小さな生き物が走り去っていった。 「何だあああ?」 ギーシュは叫びながら振り返る。 これが猫か犬なら珍しくはない。蛇やカエルでもだ。おそらくは誰かの使い魔なのだろう。 しかし、今走っていったものは。 「子供?」 緑の服と帽子の、小さな子供がすばしこい動きで走っていたのだ。その背中に、体躯に見合った小さな籠をしょって。 その小さな子供は、女子寮の方向へと走っていったようだったが。 (使用人の子か? しかし、ずいぶん小さかったな……) 大きめにみても、せいぜい三歳児くらいの背丈だったように思う。 何となく気になり、ギーシュは後をつけてみることにした。 女子寮にいけば、またぞろモンモランシーやケティと顔を合わせるかもしれない。そんな考えもあって、今までは近づかないようにしていたのだが、好奇心のほうが勝った。 勝ったというよりも、好奇心にかられて一時失恋のことを忘れていたのかしれなかった。 ギーシュはふらふらと女子寮の前まできたが、周辺を見ても、あの緑の子供はどこにもいなかった。 あるいは、幻覚だったのかもしれない。 「僕も相当疲れてるなあ……」 ギーシュは自嘲した。 しばらくその場に立ち尽くしていると、いきなり鼻にくる異臭が漂ってきた。 「うう……! げほ、げほ、げほ! なんだあ?」 ギーシュがむせながら周辺をきょろきょろしていると、女子寮の一室の窓が開かれ、そこからうっすら煙が出ているのが見えた。 どうもにおいのもとはあそこらしい。 じっと見ていると、窓から一人の女の子がひょこりと顔をのぞかせる。 ――秘薬の調合でもしていたのか? いや、まさかぼやだろうか? ギーシュはちょっと心配になって、少女に声をかけた。 「おーい、そこの君―! 何かあったのかー?」 「大丈夫ですー! におい出しちゃってごめんなさいー」 少女はギーシュの声に、ちょっとあわてた声でそう言った。 やっぱり少女の部屋がにおいの原因らしい。 しかし、けっこう離れたギーシュの位置からでも、つんと鼻にくるにおいなのだから、部屋の中はかなりきついことになっているのではなかろうか。 「まあー火事とか、事故じゃないのならいいんだけどね」 ギーシュは目の前が女子寮であることを思い出した。あまりこのあたりに長居しないほうがよいだろう。においが嫌だというのもある。 ――しかし、この子……。 どこかで見たような気がするな、とギーシュは考える。女子寮にいるということは生徒か? だったら別に見覚えがあっても不思議じゃないが、制服をきていない。 「ん?」 思い出した。やはり見た覚えがあるわけだ。 この少女は、キュルケの使い魔である少女。エリーとかエルフィールとかいう名前だったか。 と、すると、顔を出したあの部屋はキュルケの部屋か。 エリーが平民ながら、爆弾や薬を作れるという話は聞いていた。ならば、あのにおいは何かを作った際に出たものなのかもしれぬ。 ――そうだ、さっきの子供。 ギーシュは少しにおいにむせながら、やってきた理由を思い出す。 「そうだ、ねえ君。このへんで、緑の服の子供を見なかったかい? こう、ちっちゃな籠をしょってたんだけど……」 「緑? 籠?」 エリーは目をぱちくりさせていたが、ひょいと首を引っ込めてしまう。と、思うと、またすぐに顔を出した。 ただし、一人ではなく、小さな人形、ではない。小さな子供を抱えて。 「ひょっとして、その子供って、この子ですかー?」 「あ、そうそう! その子供……。いや、って、何で女子寮に子供が? まさか……」 まさか、あの子供は、キュルケの。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの。 「キュルケの、隠し子かい?」 「…………キュルケさんが聞いたら、怒りますよ」 とんでもねーこと言う人だなあ、という顔でエリーは緑の子供……妖精を抱えながらギーシュを見る。 「え……じゃあ、君の弟か何かかい?」 さすがにエリーの子供という発想はなかったようだ。 違いますよー、とエリーは笑った。 ほんの数分前。エリーはこのハルケギニアにきてから、初めてのへ新調合に挑戦していた。 今のエリーからすればちょっと高めのレベルのアイテムだったが、材料にいくつか余裕があり、最近調子もいいので、やってみることにしたのだ。 調合するアイテムは、“悪魔の息吹”。 赤の中和剤。ケムイタケ。黄金色の岩(硫黄)。これら三つを組み合わせてできる、アイテムである。 本によれば、強烈なにおいを発生させる、一種の催涙弾のようなものであるようだ。 作ろうと考えたきっかけの一つは、この間狼の群れに襲われたことから。 あのような場合、下手な爆弾よりもこういったもので、群れを無力化、あるいは惑乱させるもののほうが有効かもしれない。 エリーはそんな風に考えたわけだ。 そして、調合の結果はというと…… 結論から言えば、成功した。 したのだが。 「うえ、おえ……ごほ、げほ!!」 エリーはものすごい勢いでむせ返った。 完成した悪魔の息吹は、思った以上に効果が強いらしく、近くにいるだけでそのにおいが目や鼻にしみまくる。 その上調合過程で発生したにおいと合わさり、部屋はえらいことになりつつあった。 これは、やばい。 新調合へのいきごみで、ここがアトリエではなく、“ご主人様”であるキュルケの部屋であることを忘れていた。 おかしなにおいがしみついたりすれば、おしゃれな彼女は激怒するかもしれない。鷹揚な彼女だが、そういうことに関してはやはり気にするのだ。 あるいは、錬金術にはまりこんだエリーのほうが、少々鈍感すぎるのかもしれないが。 「窓、開けないと……」 エリーはむせながらも出来たばかりの悪魔の息吹を厳重に袋へしまいこんで、窓へ向かおうとした。 その時、部屋がノックされる。 ――うえ!? 一瞬、エリーはドキリとした。 キュルケが帰ってきたのか、あるいは、強烈なにおいに他の生徒が抗議にきたのかもしれない。 「は、はああい!」 エリーは内心やべえと思いつつも、無視するわけにもいかないので、おそるおそるドアを開ける。 「――うわあ! すごいにおい……だね!?」 ドアを開いた途端、可愛らしい悲鳴が下のほうから上がった。 おや、と視線を落とすと、籠をしょった緑の服に帽子の小さな子供が、げほげほと咳き込んでいる。 ……妖精だ。 「おねーさん、約束どおり来たよ。うえ、げほ…」 妖精はそういって笑顔を向け、また咳き込んだ。 「君は、ポポルだよね?」 「そうだよ。ぼくはねえ、行商をやってるんだ。良かったら何か買っておくれよ」 妖精ポポルはそういうと、よっこいせと籠をおろしてみせた。 「へえ……こっちでは、どんなのが……って、それどころじゃない!」 エリーはあわてて窓辺へ走り、窓を開け放った。 新鮮な空気が部屋へと入り込み、同時に部屋に充満しつつあったにおいが薄らいでいく。 ほう、とエリーは息をついた。 と、そこへ、 「おーい、そこの君―! 何かあったのかー?」 下から声がかかってきた。 「へ?」 見ると、寮の前に一人の男子生徒が立ち、こちらを見上げていた。 「……まあ、そういったわけなんです。すみません」 説明を終えたエリーは、ギーシュは頭を下げた。 「いや、僕に謝ることでもないと思うけど、でも、あのにおいはまずいかなあ」 ギーシュは苦笑する。 「それはそうと……君は変わった知り合いがいるんだね?」 そう言いながら、ギーシュはポポルを見る。 「まあ、知り合いっていうか……」 「妖精か……。おとぎ話でしか聞いたことのない相手に、こんな風に会えるとはね」 「お兄さんも、何か買ってく? 色々といいものがそろってるよ」 ポポルはギーシュを見上げて、にんまりと笑ってみせた。 可愛いらしいが、どことなく不気味でもあった。やはり、人ならぬもの。古代の精霊につらなるものである、ということかもしれぬ。 「そろってるって……」 見たところ、ポポルの籠は小さく、そんなに量があるようには見えない。 「今日はぷにぷに玉がたくさん入ってるんだ。あ、この火蜥蜴の鱗もおすすめだよ」 そういって、ポポルは妙な草やら石、それにどうも幻獣のものとしか思えない鱗や羽毛を取り出してきた。 数や種類……どう考えても、籠の中に納まりきるとは思えない量である。 ――どういう仕掛けだ? 先住魔法でもかかっているのか? ギーシュは籠をようく見てみたが、どう見てもサイズが小さいだけの普通の籠だ。 「へえ、こっちにもあるんだ…。おお! コウモリの羽や牙も!?」 エリーのほうはそんなことは気にするでもなく、ひたすらポポルの見せる“商品”に声をあげていた。 「ほう……変わった鉱石だな。……猫目石? ふうん、けっこういい宝石になりそうだなあ」 気がついた時には、ギーシュもポポルの“商品”をあれこれとっていた。 ここで、ギーシュは完全にあることを失念していた。 今いる場所がどこか。 そして、今の自分を見て穏やかならざる感情を抱きつつある人間がいることに、まったく気づいていなかった。 「ギーシュ……」 見事な金の巻き毛の少女が、わなわなと震えながら、自分と、そしてとなりの少女を睨みつけていることに。 前ページ“微熱”の使い魔
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A 診療録,医療記録 小項目 診療録・医療記録の管理と保存(電子保存を含む),診療録の内容,診療情報の開示,問題指向型医療記録(POMR) 101C3 診療録に関して誤っているのはどれか。 a 電子媒体による保存が認められている。 b 患者の請求があれば開示してよい。 c 保存は医療機関内に限られる。 d 見読性の確保が必要である。 e 保存性の確保が必要である。 ○ a ○ b × c ○ d ○ e 正解 c 100D1 48歳の男性。腹痛を主訴に来院した。5日前から主に食後,上腹部に鈍痛を生じるようになり持続している。軽度の嘔気はあるが嘔吐はない。意識は清明。体温 36.4℃。脈拍 68/分,整。血圧 136/80mmHg。心雑音はない。心窩部に圧痛があるが,筋性防御はない。朝食を食べずに来院したので,直ちに上部消化管内視鏡検査を行った。内視鏡写真を別に示す。 この患者の診察記録を問題指向型で診療録に記載した。 S: ①5日前から主に食後,上腹部痛(鈍痛)が生じるようになり持続している。軽度の嘔気(+),嘔吐(-)である。 O: ②意識は清明。体温 36.4℃。脈拍 68/分で整。血圧 136/80mmHg。心雑音(-)。心窩部に圧痛(+),筋性防御(-)である。 A: ③内視鏡検査で胃に潰瘍性病変がある。 P: ④プロトンポンプ阻害薬を投与して様子をみる。 ⑤ヘリコバクター・ピロリの検査(呼気テスト)を予定する。 問題指向型医療記録の記載として適切でないのはどれか。 a ① b ② c ③ d ④ e ⑤ ○ a ○ b × c ○ d ○ e 正解 c 100D27 44歳の男性。会社の健康診断で糖尿病と高血圧とを指摘されて入院した。自覚症状はない。夜間,排尿に起きることはない。身長 170cm,体重 78㎏。脈拍 72/分,整。血圧 144/98mmHg。血液所見:赤血球 474万,Hb 15.4g/dl,Ht 46%,白血球 6200。血清生化学所見:空腹時血糖 130mg/dl,HbA1c 6.4%(基準 4.3~5.8),総蛋白 7.0g/dl、アルブミン 4.4g/dl,AST 48単位,ALT 52単位,LDH 324単位(基準 176~353)。受け持ち医は研修医(中村)と指導医(佐藤)である。ある日の診療録を別に示す。 診療録記載の問題点はどれか。 a 問題指向型医療記録〈POMR〉になっていない。 b 不適切な略語が多く使用されている。 c 読みやすい字で書かれていない。 d 指導医の確認がされていない。 e 不適切な修正が行われている。 × a × b × c ○ d × e 正解 d 99B3 診療情報の開示について望ましいのはどれか。 a 患者の遺族には開示しない。 b 家族からの請求があれば開示する。 c 患者へ開示する前に第三者に開示する。 d 患者本人からの請求があれば開示する。 e 加入している生命保険会社からの請求があれば開示する。 × a × b × c 禁忌 ○ d × e 禁忌 正解 d 99B4 問題指向型医療記録〈POMR〉において血清生化学所見が該当するのはどれか。 a problem list〈問題リスト〉 b subjective data〈主観的データ〉 c objective data〈客観的データ〉 d assessment〈評価〉 e plan〈診療計画〉 × a × b ○ c × d × e 正解 c